教授は旭化成でイオン交換膜ウラン濃縮技術を長く手がけられた。「リサイクルしてはいけない」(青春出版社)、「リサイクル汚染列島」(同社)を著わし世間の注目を引いている。教授の主張は「エントロピーの法則より、稀散した物質を濃縮するにはエネルギーが必要。多くのエネルギーを使ってまでリサイクルしてはいけない」にある。物質凝集エネルギーと社会的回収エネルギーの同一視がどこまで成立するかを検証するため、東大安井教授との論争も紹介する。
以下の命題をリサイクル反対の根拠としている。
@リサイクルの劣化矛盾:材料は劣化する(例:プラスチック)
Aリサイクルの需給矛盾:下位の用途が無い(例:スラグの建設資材化)
Bリサイクルの持続性矛盾:リサイクルにはエネルギーという再生不能資源を使用する(例:紙)
Cリサイクルの貿易矛盾:消費した国でのリサイクルは国際分業に反する。バーゼル条約の規制
Dリサイクルの増幅矛盾:持続性矛盾に同じ(例:石油使用量 ペット製造40g/再生160g)
E環境主義の両価性矛盾:産業活動は資源消費拡大志向で環境主義と両立しない
Fリサイクルの浄化系欠陥:有害・不純物の混入(例:鉛/ガラス、銅/鉄くず)
リサイクル社会は生産活動、収集、浄化経路から成り立つ。使用済み材を収集、分離するには労力が必要である。物質の価値関数は含有率、再生品純度、リサイクル率から計算される。ゴミ中の含有率が低いとその再生にかかるコストは増大する(天然資源の採掘コストに同じ)。理想的リサイクルカスケードの単位分離工程(分離ユニット)の労力はユニット関数といい、分離速度、分離係数、能率が良いほど低い値となる。従ってリサイクルに必要な作業量SWUはユニット関数/価値関数である。などの分離工学上のパラメータが述べられているが、リサイクルでは具体的にどう計算するかは不明でかなり難しいと見られる。
日本の産業物流総量は20億トン(輸入エネルギー4億トン、輸入原料3億トン、国内建設用資源13億トン)で、産業廃棄物総量は4.5億トン(総物流量の1/4は廃棄物化)になっておりこのままGDPの維持は不可能と考えられる。リサイクルには平均3倍のエネルギーと物質を必要とするため、時間空間的に生産工場内での再生が一番望ましい。「廃棄物は分別せず埋め立てず、総て焼却しその熱で発電し残りの灰を人工鉱山に貯蔵する」という提案をしている。貴重な資源は動脈産業のみで再利用すること。
論争点 東大 安井教授の主張点 芝浦工大 武田教授の主張点
立脚点 リサイクル推進派(静脈社会) 焼却派(動脈社会)
人件費 労働費用は環境負荷ではない 労働=コスト=エネルギー負荷
社会的公正 鉄、ガラス、紙と同様にプラスチックも回収 焼却により使用量が抑制
リサイクル法 問題はあるが推進(官庁派) 間違った解決法(産業派)
労働問題 静脈産業で雇用促進 動脈産業は静脈産業を排除
さてどちらの意見が正当なのだろうか。現在鉄、紙、ガラスなどは回収ルートが確立している。しかし価格変動が激しいため回収が安定しているとは言いがたい。また回収資源の輸出問題もあり回収資源が日本の資源でなくなることもある。武田教授の言い分は恐らくプラスチックを念頭にした考えであろう。プラスチックは燃焼して熱回収したり、鉄鋼の還元燃料としてコークスの代わりにもなる。プラスチックだけの技術的議論であれば武田教授の考えは正当な場合があるが、全資源の回収がナンセンスとは暴論になる。燃えないも廃棄物が多いからである(建築廃棄物)。やし教授の主張は正論であるが、コストも考慮しなければ環境全体主義に陥る恐れもある。