定方正毅著 「中国で環境問題にとりくむ」 岩波新書(2000年)



     

東京大学工学部 定方正毅教授のプロフィール

  教授は化学工学、環境工学を専攻された。14年前に日本化学工学会の「石炭利用工学」訪中代表団員として北京にゆかれたことが、中国の環境問題に首を突っ込む機会となった。現在の中国で最も深刻な環境問題は酸性雨問題と砂漠化の問題である。中国の環境破壊はもはや一刻の猶予もゆるされない深刻な状況にある。このまま放置すれば中国は21世紀中に環境汚染で国が滅びるであろう。我が日本が明治維新前に列強の植民地にならずに独立を保てたのは、実は二千年に及ぶ中国文明の洗礼をうけた文明国の状態にあったからで、座して隣国中国の破壊を見るに忍びない。いまこそ環境技術をもって中国に恩をお返しする時だと言うのが教授の使命感である。以来発電所、燃焼炉の脱硫設備建設を中国の身になって計画し、脱硫設備の副産物である石膏を土壌アルカリ化防止に用いた土壌改良事業まで取り組んでこられた。教授のやり方は開発途上国環境技術援助の1つの解法を示すが、近年炭酸ガス排出防止枠組み条約の取引権にも通じることであり、かって日本政府主導で行なった大規模脱硫設備の失敗(設備コストが高すぎる、電力消費量が大きすぎる、水使用量が多すぎるの3つの困難で殆ど使用されていない)にこりず、利己的打算のみで中国に対処することは禍根を歴史に残すことになり兼ねない。現在の中国では日系企業は潮が引くように撤退し、替わって欧米企業の進出が著しいことを考えると、教授のやり方も欧米の戦略も考慮すべき点が多いと考える。


1) 中国の酸性雨の発生要因

主な中国の酸性雨の発生要因としては次の4点があげられる。
@ エネルギー源として石炭が主であること(72%)。
A 汚染物質である窒素酸化物NO xや硫黄酸化物SOxの固定発生源(発電所、燃焼炉など)からの除去がほとんどなされていない(50ある火力発電所の殆どに脱硫設備は付帯されていない)。
B エネルギーの利用効率が非常に低い。
C 高煙突化が進んでいない。
  例えば製鉄所での環境対策順位はコークス炉などの省エネルギー対策、脱塵対策、脱硫対策の順となっている。この順序は対策途上として致し方ないが、大気汚染なかんずく酸性雨対策は皆無であった。また設備費と運転費を考えると公害防止設対策を実施するよりは、規制違反課徴税を払ったほうがかなり安くつくことは笑い話といっていられない現実である。(違反に対して操業停止命令がないことが法的不備)
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2) 中国の砂漠化の現実と要因

  中国の森林面積は国土の13.9%にすぎず、砂漠化面積は国土の27.3%を占めている。さらに黄河渇水が日常化しているように山河の保水能力は低下している。中国の砂漠化の要因には@過耕作A過放牧B過度の薪炭採集C水資源の無計画利用D風力による砂丘の移動であり、人的要因が87%を占める。つまり人口増と貧困化がきっかけとなって都市、農村、森林間のバランスが崩壊したことが中国環境破壊の最大原因であり、かって古代4大文明が滅びるにいたった同じ経緯をたどっていると言わざるを得ない。


3) 開発途上国の環境対策(中国での経験)

定方教授は脱硫設備を中国で普及させるための条件を次の3つに要約された。
@ 設備コスト1/4化:中国の設計、材料、労働力と平均脱硫率を95%から70%へ低下させることで可能
A 乾式法と有用な副産物利用:水不足に喘ぐ中国では日本の湿式石灰−石膏法は採用できない。
B 中国側の積極的な参加:中国自ずから2号機を設計製作できる力を養成すること。
日本の発電・製鉄技術移転によれば中国の炭酸ガス低減予測量は3.8億c-トンと見こまれ、我が国の炭酸ガス総発生量の34%に相当する。日本の国際公約である6%削減は極めて容易である。中国の環境問題の解決なくして我が国の立国も難しい。




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