村田良平 著 「OECD−世界最大のシンクタンクー」

中公新書(2000年)


村田良平氏のプロフィール
氏は外務省入省以来OECD担当官と経済局畑を経験され、その後各国大使、外務省事務次官を歴任されたキャリアー官僚で、退官後は青山学院大学で国際関係論の教鞭をとられた。現在は外務省顧問、三和銀行特別顧問である。

OECDの特徴
OECDは第2次世界大戦後欧州復興のため発足した欧州経済協力機構OEECを母体として1961年9月に設置された。OECDには先進国29ヶ国が加盟し、今や世界最大のシンクタンクとして各国の経済政策調整、途上国援助、エネルギー・環境問題等を取り扱う政策集団となった。先進各国の基本課題を先取りして指針を示す頭脳機関である。先進国の政策司令塔とも言われている。

政策調整の場としてのOECD
OECDはシンクタンク的性格とクラブ的性格が特徴であると言われる。クラブ的性格とは多数決で票決しないコンンセンサス方式(同意)を基本とすることである。また討議はコンフロンテーション方式(対面審査)で行なわれる。シンクタンク的性格とは2000名の事務職員(700名の専門職員)を擁して個別の経済社会問題に対する勧告を作成することにあり、国連とは違って国際条約などを作る事は目的とはしない。
次の委員会がOECDの3大委員会とされる。

1)経済政策委員会EPC:
構造調整、規制緩和と規制制度改革、雇用問題、高齢化問題、環境問題
2)開発援助委員会:
外国投資、農業、教育
3)貿易委員会:
多国籍企業問題、技術情報社会と企業活動

これまでOECDの勧告は確かに各国政府を拘束し、世界はOECDの政策進言を実行しているように見えた。あらゆる人間活動の基本問題を先取りする各国政府のシンクタンクであり、発展途上国の導き手であった。

エネルギー・環境問題への対応
1974年、石油ショック時の石油市場安定化を目的として国際エネルギー機構IEAがOECDに設立された。1999年IEA閣僚理事会は地球温暖化防止京都会議(COP3)の目標を達成するための具体的計画に協力する決定を行なった。OECDは環境問題を経済の量的拡大に伴う外部不経済(企業活動のつけを社会へ押し付けること)と捉え1970年に環境委員会を設立したが、地球環境問題意識の高まりを背景として1992年環境政策委員会EPOCへと改称した。
  EPOCは各国政府の環境政策の審査、経済活動の環境側面アセスメント、環境効率、持続可能発展策、LCA分析、化学物質の試験法策定などの勧告を行なったきた。

OECDの今後の課題
冷戦終焉後、世界の情勢は大きく変化した。いまや東西問題、南北問題の図式はほとんど意味をなさない。またEU統合、北米自由貿易FTAAなどに見られる経済圏の統合・再編成が進みつつある。企業活動は情報化革命を背景として地球規模で均一化・同時進行のいわゆるグロバリゼーションの時代に入った。
今後OECDはグロバリゼーションの派生する問題に対応しなければならない。またグロバリゼーションに反対する市民社会(NGO活動)が一段と発言力を増してきている現在(1999年11月NGOがWTO新ラウンド交渉を阻止した事件)、市民社会とどう合意に達するのかなどの新しい状況が生まれた。


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