小宮山宏著 「地球持続の技術」

岩波新書 (1999年)


東京大学工学部小宮山教授プロフィール

著者である小宮山宏氏は東京大学工学系化学システム工学教授で、地球温暖化問題の専門家である。東京大学工学部の教官が中心となる「東京温暖化ガス半減化計画THP」プロジェクトなるものを展開され、主にエネルギ問題から地球維持策を考えて2050年までに達成すべき具体策を提示された。悲観論から持続的発展楽観論を乗り越えて,エネルギ問題の解決策を考える注目すべき労作と言える。

地球環境とエネルギ問題

20世紀は間違い無く人類の爆発的発展期であった。それを支えたのは宗教ではなく、科学的方法論である。しかし自然環境の破壊が進行し、民族間の経済的利害対立から幾度と無く戦争を繰り返し、石油を始とする天然資源は枯渇の危機に瀕する事態となった。人類の生産活動は局地的には公害であったが、生産規模の拡大により地球環境問題が出現したのが20世紀末であった。「人類はこれからも生存できるのか」はまさしく杞憂ではなく、まじかに迫った問題である。人口の爆発は食料問題、生態系の保存問題、各国特に後進国の経済発展はエネルギ、天然資源(空気,水,自然環境を含む)の分配問題を発生させた。それに対してリオ宣言は地球の持続的発展のため人類がなすべき施策の必要性を訴えたが、はたして人類が持続できるという根拠は必ずしも明確ではない。

ビジョン2050プロジェクト

世界人口が60億から100億人に達し、石油が間違い無く枯渇すると予想される2050年までに人類が省エネルギ型の物質循環型社会を構築するために、本書はビジョン2050を提起した。先進国の資源使用量は飽和しており、すでに膨大な国内蓄積量が存在する。この蓄積を廃棄物とみるのでなく資源として利用すれば、毎年の新規需要量は蓄積物の再利用でまかなえるはずである。また再利用の方が製造に要するエネルギ使用量がすくない。品質からやむを得ざる場合のみ新規天然資源を利用するというのが小宮山氏の主張の骨子である。そのための技術開発課題を明確にしようとするのがビジョン2050プロジェクトで、
@エネルギ効率の三倍向上、エネルギ使用量1/3達成
A物質循環システムの構築
B自然エネルギの開発25%代替の三点を基本とし具体化を図るものである。
小宮山教授の提案には瞠目すべき点が多い。@の省エネルギ策は97年京都議定書の約束をどうして実行するかにつながる。そのためにはヒートポンプなど低密度エネルギ利用技術の推進のみならず、Aの物質循環システムとの併用による製造省エネルギ策、Bの自然エネルギ利用のすべてを動員しなければ空手形に終わりかねない。自家用自動車のハイブリッド化による省エネルギ策など私達に変革を迫る。プラスチック工業界には再利用が出来る製品設計(マテリアルリサイクル)、最終的には石油代替燃料としてのヒートリサイクルが求められる。日本では包装リサイクル法、家電リサイクル法等(最近は食品も)により循環型社会の構築が間違い無く我々の責務である。

ビジョン2050の提起する問題

しかしビジョン2050の施策と技術課題には考えるべき多くの問題が指摘できる。その第一は原子力発電問題である。石油資源の節約だけでは2050年以降の人類生存は保障されない。原子力燃料も天然資源であるが、うまく利用できれば500年のエネルギ問題は解決できるはずである。やはり原子力問題と真正面から向き合わざるをえない。第2は循環型製品の品質問題である。現在は天然資源の方が安く品質がいいため、リサイクル材料を利用する工業製品はまれである(鉄、アルミ、PET)。 循環材料の収集システムと回収技術など未解決技術課題が多い。この技術課題が解決するまで廃棄物を一時分別蓄積するシステムの提案などが求められる。



  
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