小松正之・遠藤久著  「国際マグロ裁判」 
   岩波新書(2002年10月初版)

   

  

著者らは水産庁漁業資源課の官僚で、外務省とともに「国際マグロ裁判」に奔走した当事者であった。本書を「日本の国益を代表してオーストラリア、ニュージランドとの困難な国際紛争を戦った苦労話」だけにしないで、あくまで資源保護と持続的漁業のあり方と言う点から紹介したい。持続的利用のための科学的資源量推定と漁獲量激減による絶滅種指定の攻防戦である。

1)日本人とマグロ漁業   

主なマグロ類にはクロマグロ、メバチ、キハダ、ビンナガ、ミナミマグロがあるが、刺身の高級マグロはクロマグロ、ミナミマグロであり、スーパで売っている安価な刺身はメバチであり、シーチキンにはビンナガが使われる。日本人は昔から安価な蛋白源として魚を多食してきた民族である。2000年度の統計によると日本のマグロ漁獲量は28万d(全世界では200万d)、高級刺身用のクロマグロ、ミナミマグロは7万d(この全ては日本が消費する)である。延縄漁法と冷凍技術の発展によって日本人は終戦後世界漁場へ進出し、大西洋、インド南洋、オーストラリア南洋で活躍した。しかし漁獲量は1960年代をピークとして激減した。そのため漁業資源の乱獲から持続的利用へ移行すると同時に、200海里排他的経済水域の設定、世界の環境保護運動と西欧各国の捕鯨禁止運動、絶滅種保護条約(ワシントン条約)への危機感から日本漁業はかってない苦境に立たされている。

2)国際条約とマグロ資源論争   

マグロ漁獲量の増大、資源利用をめぐる争いから、各海域のマグロ漁場毎に国際条約と関係各国による地域漁業管理機構が設立された。東部太平洋海域では全米熱帯マグロ類委員会(IATTC、1950)、大西洋海域には大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT、1969)、インド洋海域にはインド洋マグロ類委員会(IOTC、1996)、今回の紛争の舞台であるオーストラリア・ニュージランド海域にはミナミマグロ保存委員会(CCSBT、1994)が設立された。また1994年には海の憲法と言われる国連海洋法条約が締結された。これは海洋生物資源、大陸棚資源、鉱物資源の管理と開発、航行の自由などを定めている。資源減少は明らかであるため日本は1971年にはミナミマグロ漁業自主規制、小型ミナミマグロ取引自粛などを実施した。1985年以降は日本、オーストラリア、ニュージランド3国の漁獲量制限が設けられた。1989年には3ヶ国の許容漁獲量は1987年の1/3に削減され、1993年にはミナミマグロ保存条約が締結された。

3)ミナミマグロと国際裁判   

日本の海洋資源の持続的利用という基本的な考え方に対して、オーストラリア、ニュージランドは環境保護政策から漁業の禁止と資源保護に優先度を置いた。まだ資源はあるとする日本と資源は無いとする考えの溝は平行線をたどり、オーストラリア、ニュージランド政府は1998年、1999年に日本が強行した調査漁業の差し止めを要請して国連海洋方裁判所(ITLOS)へ提訴した。1999年8月27日には日本の調査漁獲禁止というITLOSの命令が出されたが、日本は国連海洋法仲裁裁判所を設置して命令の妥当性を争い、2000年8月4日ITLOSには管轄権はなくミナミマグロ保存条約関係各国で話し合うべきであると言う判決が出され日本は全面勝訴した。日本はミナミマグロ保存委員会の機能強化策として科学委員会と諮問委員会を設置し科学的資源評価法の指導権を発揮した。と同時に条約国は韓国、台湾等の海賊船追放を強化するため、韓国、台湾の条約枠組み参加を勝ち取った。  

                 


環境書評に戻る

ホームに戻る
inserted by FC2 system