石弘之 安田喜憲 湯浅赳男 鼎談「環境と文明の歴史」洋泉社(2001年)

   

文明の興亡はある意味では同じことの繰り返しである。中国王朝の変遷の歴史を紐解けば一目瞭然である。人類は危機の度に変化を遂げてきた。石弘之氏を座長とする鼎談はまさに食料生産の源である森林破壊の歴史が今日では地球破壊にまで及んでおり深刻な状況であることを示している。

1.環境史の衝撃―イースター島の崩壊―
  

紀元5-6世紀に数十人のポリネシア人が移住して高度な文明を作り上げたが、16世紀中頃小さい島で人口は7000人以上にも膨張し食物から樹木まですべて消費し尽くしたため最後には部族間の紛争になり殺し合いの末滅亡した。これこそが環境の歴史が警告する地球の未来像ではないかと多くの人に衝撃を与えた。人類史を環境の側面から眺めると、人類の生存を理由に地球本来の生態系や物質循環システムを大きく歪め深刻な環境破壊を招いてきた。地球環境問題の出口を求めて今や環境史に大きな関心が寄せられている。環境史に先鞭をつけ人類に最も影響を与えた書の一つに1962年レイチェル・カールソン「沈黙の春」がある。人間が撒いた農薬が究極的に人体まで汚染することを示した警世の書である。自然界が閉じた地球システムであることを判りやすく言及した。

2.文明の興亡の原因をさぐる
2.1 現代型新人の誕生から古代文明の崩壊まで(20万年前〜紀元前2000年)

8000万年前東アフリカに2足歩行をはじめる人類が誕生した。十数万年前地球上の原人はすべて滅亡して新人(ホモサピエンス)が取って代った。新人が登場して十万年前世界の大型動物の絶滅が起きた。石器を用いた動物の殺戮により新人が爆発的に拡大した。1万5000年前に氷河期が終わり一気に温暖な時代に移行すると森の形成と並行して人類の定住と農耕(縄文文化)が始まった。紀元前3700年に気候が非常に寒冷・乾燥化になると危機が訪れて人類の大移動が始まり、紀元前2000年の気候変動でインド・ヨーロッパ民族(チグリス・ユーフラテス文明、インダス文明)と漢民族(黄河、長江文明)が爆発的に膨張した。気候変動による水,森林、耕作地の変動が民族移動と生活革命をもたらし、文明の興亡の原因となったようである。メソポタミアでは灌漑治水による共同体連合が生まれ文明は隆盛を迎えたが、700年以上も灌漑を続けると塩害によって農耕地が使用不能に陥り、他民族の侵入があって文明は崩壊した。水の豊富なエジプト文明は永く続いたがナイル川の水位変動によって崩壊した。

2.2 グレコ・ローマ文明の誕生から中世の終焉まで(紀元前2000年〜紀元15世紀)
  

古代文明に代わって興ったギリシャ・ローマ文明は天水農業をもとにして独立自営農民を初めて生み出した。天水農業を支えるものは森林と降水である。これが枯渇すると食料を求めて植民地経営に頼らざるを得ない。ギリシャ文明は森林を破壊して没落し、ローマ文明はエジプトを植民地としてパンを得た。ローマの支配者はゲルマンの森を求めて激しい植民地化戦争と略奪を繰り返し、その後修道院による農耕牧畜経営によりゲルマンの森の1/3は破壊された。ギリシャの多神教の世界(他の価値を受け入れる)は一神教のキリスト教(人間中心のイデオロギー)にとって代わられた。キリスト教が森林破壊の原動力であったといっても言い過ぎではない。それはすなわち牧畜の民の思想であり、東洋のモンゴル帝国の殺し尽くす思想もおなじ牧畜の民の思想であった。ローマ以後の中世でも植民地化は奴隷という農耕労働力獲得にために続いた(人間の家畜化)。この奴隷制はヨーロッパ中世の暗部であり、スラブ人、ゲルマン人、アフリカ人が奴隷化されユダヤ人が売買を仲介した。森林破壊と動物の殺戮によってペストが大流行して中世の人口は激減した。

2.3 ヨーロッパ文明の拡大から大量生産・消費の時代へ(15世紀〜現代)
  

地球環境問題が悪化した原因はもとを正せばヨーロッパ近代文明が地球規模に膨張したことと関係が深い。14世紀のペスト流行で沈滞したヨーロッパは1345年コンスタンチノープルの陥落によってオスマントルコの圧迫を受け、海外森林資源を求めてスペイン、オランダの大航海時代に移行した。牧畜の民族がついに船に乗ったわけである。このように危機に陥るたびに活路を求めて民族の移動と生活の大変革が誘導される。近代文明は科学思想と産業革命に特徴づけられ人類は巨大な生産手段を獲得したが、同時に環境破壊もすさまじかった。19世紀の化学産業は肥料・農薬・医薬品を創造し、食糧増産と死亡率低下によって人口の大爆発をもたらした。すなわち地球環境問題の出現である。20世紀は米国に始まった大量生産・大量消費経済時代に入り、エネルギー・資源枯渇が焦眉の問題となった。人口問題、公害問題、地球温暖化、資源枯渇問題が鮮明に意識されたのもこの世紀であった。

3.人類の破局を食い止める環境戦略は可能か

近代工業技術文明で上昇したエネルギーをいかにスローダウンして軟着陸(ソフトランディング)させるか、つまり循環型社会に変える方法を考えなければならない。オランダ、デンマークなどは国をソフトランディング させるシナリオ作りに国を挙げて取り組んでいる。日本は資源・エネルギーの90%を海外に依存する体質(世界で一番安い物を買ってくる経済構造)を変えないと、自分達の生存シナリオを描けないであろう。世界中の資源を買い捲っているなら日本は世界一の資源国であるはづだが、それを廃棄物としておしげもなく捨てている。資源リサイクルが日本の最大の課題である。環境問題は資源問題であることを認識し、国家戦略としての環境の視点を持っている政党は日本には一つもない。21世紀には先進国が環境戦略によって弱い国を締め上げて,内戦に追い込み自滅させる戦略が囁かれている。いささかおだやかではないが、米国の安全保障最優先の行動をみているとあながち外れてはいない。


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