石 弘光著 「環境税とは何か」

岩波新書(1999年)

一橋大学学長  石 弘光氏 プロフィール

氏は長く一橋大学経済学部の財政学の教授であった。氏は1991年頃より環境と税制に深くかかわりを持たれ、環境に関して「中央環境審議会委員」、税制に関して「政府税制調査会委員」を務められた。また各種の日本委員として国際的に活躍された。また環境庁に設けられた「環境税研究会」(1991-1994)、「環境に係わる税・課徴金等の経済的手法研究会」(1994-1997)、「環境政策における経済的手法検討会」(1998-)などに参画された。本書の目的は1997年に開催された「気候変動枠組み条約第3回締結国会議(京都COP3)」で取り決めた削減目標の具体化にある。1998年アルゼンチンで開かれたCOP4では問題はすべて先送りとなった。地球温暖対策の最重要課題は市場メカニズムによる経済的手法の活用とりわけ環境税の導入の是非を含めた政策論議にある。環境税や炭素税の導入には反対姿勢の経済界・通産省と導入すべしという環境庁の対立の構図はすでによく知られている。氏は環境庁側の論客でもある。
植田和弘著「環境経済学への招待」が、本書よりも広く経済活動と環境を論じているのに対して、本書は政策議題としての環境税制を主眼とする具体的な提案である。

これまでの環境政策と限界

これまでの環境政策は局地的公害対策としての性格から、規制(ムチ)と補助金(アメ)が主流であった。しかしCO2削減量の割り当てといった政策は行政(通産省)の能力を超えた企業情報の詳細把握が必要になり実効のある政策が期待できなくなった。また補助金や減税措置政策はOECDが唱える汚染者負担原則(PPP)に反し、「外部不経済」や「隠れた産業保護」につながりかねない。

環境政策と経済的手法

環境税の理論的基礎は外部費用の内部化による消費抑制にある。右肩上がりの大量生産、大量消費といったバブル体質を排し健全なバランスをとることが持続的発展の原点となろう。OECDは次の経済的手法を提案した。税課徴金、補助金、排出権取引によるトータルコストミニマム、デポジット制などである。多少の時間差はあっても産業界はOECDの提案の流れに沿った展開にならざるを得ない。

環境税のデザインー炭素税導入をめぐって

課税のやり方として新税または既存税制の方法があり、税の集め易さ(行政費用が易い)からは既存税のグリーン化(石油関連諸税)に付加税として炭素税の上乗せが有力候補として検討されている。既存税にはエネルギー税(自動車燃料税、エネルギ製品税)と非エネルギー税(売上税、消費税)があり、新税としての環境税はEUの一部の国で炭素税が実施されている。炭素税が実施された時の財政効果は大きく所得税(26%)、法人税(18%)、消費税(4.6%)、炭素税(3.5%)の順になる。税収の使途は特定財源化(目的税)がよさそうだが財源の硬直化やOECDのPPP原則による反対が心配される。また税制の中立性の観点から一般財源として赤字削減や減税に充当することも検討されている。
炭素税のメリットはインセンティブ効果(企業誘導効果)、アナウンス効果(国民の生活態度教育効果)、社会費用の内部化が期待される。しかし税負担の帰着は結局消費者になり負担の逆進の心配があり、また経済界の反対(GDPの減少、国際競争力低下)は必至であるが、これに対しては低税率、補助金併用型炭素税や国際炭素税の相殺などのオプション政策を考えていかなければならない。いずれにせよ緊急の国際的課題である地球温暖化防止のための環境税(炭素税)をめぐって、さまざまな提案、政策などの知恵を模索しなければ、「持続可能な開発」も空しく聞こえるのは編者ひとりの杞憂であろうか。


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