池田清彦 著 「環境問題のウソ」


ちくまプリマー新書(2006年2月)

日本在来種保護の為の外来種規制はナチズム思想、環境省の愚行

池田氏の専攻は理論生物学、構造主義生物学である。生物の分類、構造主義生物学の著作が多い。本書「環境問題のウソ」は今時なぜというようなばかげた書名なので、どうせ保守体制側のふざけた本であろうと思って興味半分で読んでみた。内容は(1)地球温暖化問題のウソとホント」(2)ダイオキシン問題のウソとホント(3)外来種問題のウソとホントという三部構成である。著者の専門からして、まえの二題(地球温暖化、ダイオキシン)は他人の受け売りにすぎない、最後の外来種問題のみが著者の意見が入っていると見られる。ただし共通していえることは、政策課題は必ずしも科学的に正しい事柄だけではない、正義の物語と利権が結びつくと増幅作用が働いて現実の政治や世間を動かす力になるということは私にも納得できる主張である。地球温暖化は必ずしも炭酸ガスをはじめとする温暖化ガスのせいではなく、太陽活動に基づく自然現象で説明が出来るという主張は昔から言われてきたことである。特にアメリカでは主流の考えであろう。地球温暖化防止は世界の新しい枠組みをめざす欧米の覇権争いでやり取りされる世界的政治思潮である。もはや科学の問題ではないことは自明であることは著者は分かって言っているのだろうか。環境問題そのものが資源・エネルギーの争奪戦という生き残り戦略である。新しい形での南北問題化である。ダイオキシン問題は最近めっきり話される事もなくなった。朝日テレビと焼却炉メーカーの陰謀であったことも自明である。「ダイオキシンで死んだ人はいない、ダイオキシンで食っている人は多いが」という冗談も囁かれていた。謀略によりダイオキシンをダイレクトに飲まされて顔の肌が荒れた旧ソ連圏の大統領もいたが、殺されたわけではない。ダイオキシンという恐怖物語が横行しただけのことである。そこで本書で取り上げる価値のある話題は外来種問題のみである。

2005年施行の「特定外来生物被害防止法」は稀に見る悪法だという著者の主張を聞いてみよう。確かに「絶滅危惧種保護法」でレッドゾーン種を指定して保護しようとする政策には一理があった。それでも人間の生態破壊活動をそのままにして、保護が出来るわけでもなく、効力の期待できない法律である。「特定外来生物被害防止法」はその愚を上塗りしたようなばかげた法律である。在来種といっても長い目で見れば交雑種に過ぎず、人間だって交雑可能は種として一つであるという定義もある。(黒人、白人など人種は存在しない)日本在来種の定義も不可能である。いってみればすべて交雑種であって純血種があるような誤解を招く発想は血の優越をいうナチズムの通じる思想である。日本人は純血だというのも誤解に過ぎず、多くは戦前の軍国主義・帝国主義・植民地主義がでっち上げた幻想である。平安時代以降の鎖国主義によって交雑が禁止されたためこの1000年ぐらいは日本人が固定化されたに過ぎない。外来種は悪者という発想は生物学的にも間違っている。生物の進化は遺伝的交雑により成し遂げられたのであって、種の保存など細菌の無性増殖以外には考えられない。

 
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