ダレル・ハフ 著「統計でウソをつく法」
  講談社ブルーバックス(1968年7月初版)

   

本書が英国で出版されたのは今から48年前(1954年)である。「統計」がいかがわしい取り扱いを受けあまり信用されていなかった時代の産物である。英国の政治家デズレーリは「嘘には3種類ある。ウソ、見え透いたウソ、そして統計である。」と言った。現在はある意味で統計万能時代ともいわれる。選挙の出口調査によって開票率5%でも当落を決定する(テレビの開票速報での当落発表が間違ったことはあまり聞かない)。一方、村の選挙と昨年の米国大統領選挙(ブッシュ2世とゴアの泥試合)のように最後の1票まで目で確認しなければ納得しないのとは好対照である。
  本書の書名「統計でウソをつく法」とはふざけているようだが、新聞メディアの陥りやすい過ちと裏街道の真実を曝露して面白い統計の初歩を教えてくれる。気楽にあっという間に読めて内容の少ない本であるので、まとめる必要もない。事例集を列記するので、ニヤリと笑ったりそうだと納得して見てくだされば幸いである。
1)1924年度のエール大学卒業生の年間平均所得は25111$である。(当時ですごい高給である)
(種明かし)税務署調査ではないので事実より大げさに給料を申告する。安月給の人や失敗した卒業生は答えてこない。答えてきたのは成功者ばかり。
(教訓)最初からサンプルに偏り(歪み)があった。この集団は全体を代表していない。
2)当社の平均賃金は5700$である。(こんなにもらっている人は誰、殆どが平均以下)
(種明かし)平均の定義をしないで、算術平均値を公表した。数少ない高級取りに引きずられた。
(教訓)平均には算術平均、中央値、最頻値がある。"平均にだまされるな"。
3)A君とB君はIQテストを受け結果はA君が98、B君は101であった。A君の母親は自分の子はB君より劣るのではないかと劣等感に悩まされている。
(種明かし)IQには確率的誤差±3%を含む。標準は100±3であるので範囲は(97-103)である。
(教訓)絶対値は気にするな。全ては誤差を含む。誤差範囲内にあれば同じ。
4)夜のドライブは危険が倍増する。(警察がよくする話で本当だと思い込んでいる人は多い)
(種明かし)大体真実らしいが結論ではない。夜のほうが交通量が多いからで、交通量を同じにして評価しなければ結論づけられない。
(教訓)ベースとなる数字の原単位はなにか。
5)6月の自殺者が最高となるのは、6月に結婚が多いからだ。(結婚は人生の墓場)
(種明かし)相関はあるが、全く因果関係の無い2つのお話。春には好転するだろうとがんばってきたが一向に良くならない今日の景気に絶望。
(教訓)偶然の相関は原因結果ではない。
6)シカゴ紙は169社の調査で3分の2の会社は朝鮮戦争で物価が高騰して苦しんでいると発表した。
(種明かし)1200社のうち回答があったのは169社(回答率14%)に過ぎなかった。
(教訓)回答率を秘密にした話はウソ(歪み)がある。
7)中国のある新疆自治区の人口調査が中央政府の各部署より依頼された。年金関係調査には1億人と答え、国勢調査には3000万人と答えた。さてどちらが正しい回答か。
(種明かし)お金がもらえる調査では多く答え、税金や徴兵の基礎資料となる調査には少なく答えた。
(教訓)調査の趣旨に応じて回答者は答えを選んでいる。真実を述べていない。
8)1935年の英国の国勢調査では農村人口が50万人も増加した。農村へ帰ろうという社会現象と解説された。
(種明かし)農家の定義が前年より変更になった。
(教訓)政府統計資料にはこの手のすりかえが多いので要注意。

                  
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