ちあきなおみ 「黄昏のビギン」 

昭和と共に終った人生応援歌 



TECE  テイチク エンターテイメント 2000

このアルバムに収録されている曲を下に示す。
Vol.1
@黄昏のビギン  Aかもめの町  B星影の小径  C秘恋  D夜霧よ今夜もありがとう  E雨に濡れた慕情  F紅い花  G東京の花売り娘  H喝采  Iイマージュ  Jダンスパーティーの夜  Kルイ  L泣かせるぜ  M役者  N雪  O粋な別れ  P伝わりますか
Vol.2
@紅とんぼ  Aさだめ川  B歳月河  C君知らず  D情け歌  E昭和えれじい  Fひとりしずか  G都の雨に  H男の友情  I逢いたかったぜ  J帰れないんだよ  K雨ふる街角  Lネオン川  M星の流れに  Nしのび雪  O矢切の渡し

 ちあきなおみのプロフィールをざっとまとめておこう。
 彼女は昭和22年9月17日、東京都板橋区に生まれるた。4歳の時からタップダンスを習い始め、5歳で日劇のステージに立った後、13歳で本格的な歌手活動を開始し、その後演歌のレッスンを2年ほど続け、その間には流しの経験なども積んだ。
 コロムビアのオーディションにうかって、昭和44年「雨に濡れた慕情」で念願のレコードデビューを果たす。そして2作目「朝がくるまえに」がヒットチャート誌で17万枚近い売り上げを記録。昭和45年に4作目の「四つのお願い」が大ヒットし、第1回日本歌謡大賞・放送音楽賞を受賞。同年発売の「X+Y=LOVE」も連続ヒットとなり、その年のNHK紅白歌合戦に初出場を果たした。昭和47年、「喝采」で第14回日本レコード大賞を受賞。実力派歌手としての認知が高まった。昭和50年には作曲家・船村徹による演歌系作品「さだめ川」と、幅広いジャンルのヒット曲を発表。
 昭和53年、俳優の郷^治氏との結婚を機に「自分が歌いたい歌にじっくり取り組みたい」と休業、充電期間に入る。一方、郷氏(俳優宍戸錠氏の弟)は結婚後はちあきのマネジメント業に本格的に取り組むようになった。昭和55年テレビドラマに出演し、まずは女優として芸能活動を本格的に再開させた。昭和56年にビクターに移籍し、シャンソン、ジャズ、ファドなど海外の作品をカバーしたアルバムをほぼ1年に1枚のペースで発表。テレビ番組で歌うことはほんどなかったが、とにかく歌手活動を再開させた。昭和62年、金鳥のCM『ゴン(タンスにゴン)』のイメージキャラクターに起用され、ユニークなキャラクターを見せた。
 昭和63年、テイチクに移籍し5年ぶりのシングル「役者」で再び歌謡曲・流行歌のジャンルでの歌手業を本格的に再開。同年発売の「紅とんぼ」で11年ぶりの紅白歌合戦出場を果たした。平成元年には演歌のジャンルで活躍した歌手に送られる「藤田まさと賞」を受賞した。歌のジャンルの枠を超えて、順調な活動を続けていたが、平成4年、夫・郷氏の死去に伴い活動を休止。今日まで一切芸能活動を行っていない。惜しまれる。活動時期は1969年 - 1992年の間である。

本アルバムは水原弘のオリジナル曲「黄昏のビギン」(永 六輔 作詞  中村八大 作曲)を題名とするアルバムで、上の示した全33曲のしっとりした昭和エレジーを聞かせてくれる優れものである。そのしっとりとした歌声が視聴者の心をとらえ、「誰が歌っているのか」と再度ちあきなおみの歌唱力が話題になったほどである。私も2000年の発売と同時に購入し、以来8年間座右の名曲として、折りにつれレコードならとっくに擦り切れてしまっているだろう回数を聞き込んできた。平成4年にちあきなおみは夫君の死去に伴って一切の芸能活動を停止し、テレビからも消えて消息もない。恐らく強度のうつ状態にあるのではないかと思うが、惜しまれる限りである。ちあきなおみの魅力を思いつくままに拾ってゆく。
・並の演歌歌手がやるように彼女は声をかぎりに絶唱する歌い方をあまりしない。余裕をもった声量で、含みをもたせ、聴く者を誘い込むように歌う。じっくり聞かせるのである。へんな「こぶし」は使わない。ヴァイブレーションもあまりかけない。
・フォルティッシモで創り出すドラマチックな世界は迫力充分で感動的だ。多少ドスが利いた声でストーリを聞かせるのである。美空ひばりのような感情移入ではなく、彼女自身は決して泣かない。泣かされるのは聞くほうである。
・上と同じ事になるかもしれないが、歌詞をじつによく消化して、自分の創るべき世界、言葉の機微を一曲の中で過剰と思えるほどに脚色して、人生のもの哀しさを繰り広げてみせる。演劇と共通した可視的な世界を目の前に提出するのである。
・ちあきなおみのもうひとつの魅力は、上述の「黄昏のビギン」や「星影の小径」のように、他人の持ち歌を多数歌っていることだろう。しかもそのどれもがオリジナル曲を凌駕して、ちあきなおみの歌にしてしまっている。このアルバムには石原裕次郎の曲も3曲入っている。
・このアルバムのVol.2には船村徹作曲の昭和哀歌がギターのメロディーと共に10曲も収録され、貧乏だった昭和時代の人生応援歌がしみじみと堪能できる。それもド演歌ではなく本当に貧しかった時代の歌である。もう一度云うが貧しかった時代から脱却したいと云う気持ちが昭和の高度経済成長を支えた。彼女の歌は昭和のノスタルジーであったのだろうか。いまではド演歌は通用しないが。



音楽とオーディオに戻る ホームに戻る
inserted by FC2 system