真空管アンプキットの製作を2ー3年やめていた。一番大きな理由はお金がない事で、次にお袋の介護で京都に行っていたので暇がなかった事、そして最期の楽器である自分の耳に再現性がないことで多少嫌気がさしていたことである。ところがお袋を見送ってから、多少余裕が出てきたのと、ブログで毎日CDの紹介を初めたので、これまで集積してきたCDライブラリーを聞きなおす作業が毎日続いているため、また音の対する興味がわいてきたのである。きっかけはこれまで愛用してきたサンバレー社製300Bアンプのトランスが振動して故障となり廃棄処分したことで、なんとしても300Bの音を再度聞いて見たくなったのである。色々考えたあげく、人生最期のキット製作になるかもしれないので、悔いのない300Bアンプを作る事にした。狙いを付けたのは、直熱三極出力管である300B真空管に最高といわれるウエスタンエレクトリック社を使っており、アンプの要であるトランスには名門タムラトランスを使っている秋葉原サンオーディオ社のシングルステレオアンプSV-300BEである。価格はキットで25万円であるので購入可能である。
SV-300BEの仕様を抜書きしてみよう。下の写真に見るように、使用真空管は増幅用に6SNGT管(ロシア エレクトロハーモニック社)の2段増幅2本、出力管に300B(アメリカ ウエスタンエレクトリック社)2本、整流管には5U4G(ロシア スヴェトラーナ社)を使用。出力は8ワット、周波数特性15Hz−30kHz(−3dB)、入力感度150mVであった。300Bには直流点火方式、無帰還アンプで、トランス・チョークはタムラ製。300B真空管には中国製とスロバキアJ&J社製を持っているので機会があれば、300B真空管を交換して視聴してみたい。キット製作・調整と電圧テストは約10時間で終了した。製作はきわめて容易で一発で音は出たが、最初の問題はハム音が多少大きかった。そこで教科書どおりに信号シールド線とアース線周りのハンダ付けをチェックし、再度半田ごてを当てて半田を溶かし流動することを確認した。これで再度ハム音のバランス調整をして、殆ど気にならないくらいにハム音は解消した。毎度自分の半田付け技術のお粗末さには泣かされる。
私のオーデイオシステムと試聴アンプ2台(左SV-300BE、右McIntosh240)を下の写真に示す。
CDプレーヤ:TEACのVRDS-50:フルエンシー理論(20KHz再生)RDOT類推補間技術、VRDSメカニズム 真空管式コントロールアンプ:サンオーディオSVC-200: ECC82×2本 10Hz-100KHz タムラSPT-P1 メインアンプ: (上左の写真)直熱3極管300Bシングルアンプ(8W):サンオーディオ SV-300BE(300BはアメリカWestern Electric製) (上右の写真)McIntosh240 6L6GCppアンプ(40W):McIntosh240(6L6GCはアメリカGE製) スピーカ:タンノイ スターリングHE:10インチ同軸2ウエイ、能率91dB、クロスオーバ1.7KHz、35Hz〜25kHz スーパツィーター:タンノイ ST-200: 25mmチタンドーム型、能率95dB、18KHz〜100KHz |
私は十年前に購入した中古品McIntosh240アンプ(6L6GCプッシュプルアンプ 40W)の音を信頼しており、何に付けても私の好きな音の原点である。したがってレファレンスとしてMcIntosh240を考えて、それとどう違う音が出るのか、特徴的な音とは何かを比較した。結局音は音楽ジャンルに合わせた好き嫌いであるに過ぎないので、公平な表現は不可能である。McIntosh240の音を表現する事は難しい。とにかく一言で言えば繊細で美音である。McIntosh240の美音に対して、SV-300BEはどういう音を出すのか、差異点だけを自分が最高のクラシックと考える10枚と、日本の歌手中島みゆき、タイガースを加えて視聴した。なおMcIntosh240の音はすべての点で私は満足していることを表明しておく。欠点があるわけではない。
試聴曲CD | McIntosh240 6L6GCppアンプ (40W) | 300Bシングルアンプ(8W) サンオーディオSV-300BE |
バッハ「無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番」 シャコンヌ ヴァイオリン:寺神戸亮 1999 DENON |
そぎ落としたような美音 繊細きわまりなし 特に刺戟的なヴァイオリン音はない | 高音が粘り強く伸びてゆく 音に豊かな表情と密度がでてきて、細部が見えてくる |
バッハ「無伴奏チェロソナタ第6番」 第1楽章 チェロ:アンナ・ビルスマ 1979 SEON |
優しい響き、 静寂で癒し系の音 | 低音が分厚くなり、生き生きとしてくる |
バッハ「トッカータとフーガ」 オルガン:トン・コープマン 1985 ARCHIV |
低音が良く響いており、高音は美音である | 妖しいまでの広い音の世界 低音にさらに迫力が出ている |
モーツアルト「弦楽五重奏曲第4番」< 第1楽章 ビオラ:寺神戸亮、クイッケン四重奏団 1995 DENON |
生き生きとした第2ヴィオラの動き 高音から低音までよく分離された弦楽器の音 繊細なメロディが聞こえる | 繊細な感じは変わらないが、さらに低音の響きが加わる McIntosh240と7同じ音 |
モーツアルト「ピアノ協奏曲第20番」 第1楽章 ピアノ:ゼルキン アバド指揮ロンドン管弦楽団 1981 ドイツグラモホン |
ピアノ高音が美しい 中低音はやわらか 交響楽のメロディが良く聞こえる | 突き抜けるような高音が美しい 総合的にMcIntosh240と同じ音 |
ペルゴレージ「スターバト・マーテル」 第1楽章二重唱 ソプラノ:マーシャル、アルト:テッラーニ 1983 グラモフォン |
2重唱は静かな癒し系 ソプラノは強く美音 | ソプラノは聴き易い高音で、管弦楽は柔らかに響く |
ベートーヴェン「ピアノソナタ第5番」 ピアノ:ギレリス 1985 ドイツグラモホン |
張り裂けるような悲しみの曲 怒りは爆発する低音で、説得力は中音、かなしい繊細さは高音で | 低音はさらに強く 中高音はMcIntosh240の音に同じ |
ベートーヴェン「弦楽四重奏曲第9番ラズモフスキー3番」 第1楽章 ウイーンアルバンベルグ弦楽四重奏団 1979 EMI |
鋭さとスピード 力強い響き | 響きはまろやかに分厚く 弦楽合奏の響きに向いた McIntosh240より優れた音 |
ベートーヴェン「交響曲第3番」 第1番楽章 アバド指揮 ウイーンフィルハーモニー 1986 ドイツグラモホン |
ウイーンフィルのゆったりとした柔らかい響きと力強さ 美しい音 | 総合的に McIntosh240とおなじ音 |
タイガース「花の首飾り」 タイガース ユニヴァーサルミュージック |
メインボーカルの声の響きと弦楽器の音が印象的 | 弦楽器の音が妙に艶っぽい McIntosh240とおなじ音 |
中島みゆき「サッポロSNOWY」 中島みゆき 1991 ポニーキャニオン |
ドラムの低音とみゆきの力強い美しい声 | 低音がさらに力強く、高音の伸びのある声 |
まとめ:
SV-300BEの音は弦楽器そのものの音に向いているようだ。交響曲ほどの規模では二者に差異はない。声楽、ピアノにも差はない。