ブラームス、レーガー、ヒンデミット、ショスタコーヴィッチのビオラソナタ 

ビオラの不幸なわけは


ビオラには悪いが、普通の人には大変馴染みがない楽器である。先ずその形がバイオリンと変りがなく注意深く眺めれば少し大きいかなと気がつく程度である。オーケストラでは左から第1バイオリン群、第2バイオリン群、ビオラ群、チェロ群、コントラバス群と勢揃いしている中で真中あたりにいるはずであるが、メロディを奏するわけでもなく、高音部を声高々に主張するわけでもなく、自虐的に言うととにかく目立たない存在が分からないというマイナーな楽器である。しかしビオラはクラリネットと同じく人間の発声に最も近い音域を奏する楽器でビオラを中心にした曲に恵まれなかったが、オーケストラではチェロと同じく和音を支える「縁の下の力持ち」的存在である。地味だが燻し銀的といったほうが良いであろうか。クラシック音楽でビオラの名曲は数少ない。今回ビオラについて語るのは私のへそ曲がりな性格により、ビオラにフットライトを当てようとする試みである。   実はビオラはかの天才モーツアルト自身が演奏した楽器である。そのためモーツアルトはビオラのために「バイオリンとビオラのための協奏交響曲」K.364、「バイオリンとビオラのための2重奏曲」K.423、K.424、「バイオリンとビオラのための3重奏曲(ケーゲルシュタットトリオ)」K.498、「ディベルトメント」K.563、そして名曲中の傑作でビオラを巧みに活躍させた「弦楽五重奏曲(1〜6番)」など、人類への遺産と言うべき名曲を残してくれた。 飛翔する天使のメロディを奏でるバイオリンと深い精神世界へ誘うビオラの特徴が生き生きと活動する。 ところがそれ以降20世紀初めまで本格的なビオラ協奏曲は書かれなかった。100年以上ビオラ曲不毛の時代が続いたことになる。その理由としてモーツアルト的天才演奏家が出なかったことを挙げる人がいる。1920年代になってライオネル・ターティス、パウル・ヒンデミット、ウイリアム・プリムローズの3人の名手の登場によりビオラ中興の期を迎えたとされる。このページの下に数少ないビオラ曲のCDジャケットを4枚掲載する。とにもかくにもビオラは優しい。現代音楽でビオラが聴けるのはビオラの持つ特性に助けられたといえる。(そう私は現代音楽が分かりません)

1)ブラームス 「ビオラ ソナタ第1ヘ短調、第2番ホ長調」
ビオラ:キム・カシュカシャン  ピアノ:ロバート・レバイン (1997) ECM   

ブラームスのビオラソナタはもともとクラリネットのために書かれた作品である事はよく知られているが、現在ではむしろビオラで演奏されることのほうが多い。第1番は特に「情熱的」に演奏されるがしっかりした構造を持つ曲である。このCDではキム・カシュカシャンは冒頭1オクターブ高い音で弾き始める。クラリネットを意識した演奏であるがロバート・レバインとの協奏が見ものである。非常に知的に高い演奏で私の愛聴盤のひとつである。キム・カシュカシャンはバイオリニストのギドン・クレメールとの一連のモーツアルト録音で一躍名を知られるようになった。先に挙げたモーツアルトのビオラ曲のCDはやはり私はすべてギドン・クレメール、キム・カシュカシャンの演奏盤を持っている。

2)マックス・レーガー 「3つの無伴奏ビオラ組曲 作品131」
ビオラ独奏:エルンスト・ボルフィッシュ (1969) DaCa 77504

レーガ-の「3つの無伴奏ビオラ組曲」はヒンデミットの4曲の無伴奏ビオラソナタとともに無伴奏ビオラソナタの双璧をなす(これしかないのだから最高という意味ではない)。レーガーは数多くの管弦楽曲を作ったが、後期ロマン派とか純音楽派とか言われ現代音楽の時代になるわりには、この3つの無伴奏ビオラ組曲は実に分かりやすく、感情を優しく表現しているようだ。耳に心地よい音域で好感が持てる曲である。3つの組曲は各10分程度の長さである。演奏は重音を多用し旋律を謳うことが非常に難しい超絶技巧曲だそうだ。エルンスト・ボルフィッシュは分厚い音の移行を難なく演奏している。

3)ポール・ヒンデミット 「3曲のビオラソナタと4曲の無伴奏ビオラソナタ」
ビオラ:キム・カシュカシャン  ピアノ:ロバート・レバイン (1985,6) ECM

自身が優れたビオラ演奏家であったヒンデミットは3曲のビオラソナタと4曲の無伴奏ビオラソナタを残した。新即物主義とか新古典主義とか言われ結構硬い曲で知られるヒンデミットにしては珍しいロマンチックな曲である。ピアノとビオラのソナタは分かりやすく優しく出来ているが、無伴奏ビオラソナタ曲は強面な面が強く打ち出されている。力強さと構造的な音に惹かれる人は多い。私もその一人なのだが。特に無伴奏ビオラソナタ作品25の1の第4楽章は「野性的に、音の美しさはどうでもよい」とされるが、ビオラの持つ人間的な声に助けられて説得力をもって迫る。これがバイオリンなら聞けた代物ではなくなるだろう。

4)ショスタコーヴィッチ 「ビオラソナタ ハ長調 作品147」
  ビオラ:シュロモ・ミンツ  ピアノ:ビクトリア・ポストニコバ   

ショスタコーヴィッチと同時代人の演奏は作曲家への感情をこめた演奏になるが、このシュロ・ミンツの演奏は楽譜だけからの演奏になる。その意味での音の純化が優れた演奏になっている。



ビオラ ソナタのCDより
 
ブラームス 「ビオラソナタ 第1番、第2番」 ビオラ:キム・カスカシャン ピアノ:レバイン (1996) ECM ヒンデミット 「3つのビオラソナタと4つの無伴奏ビオラソナタ」 ビオラ:キム・カスカシャン ピアノ:レバイン (1987) ECM 
ブラームス 「ビオラソナタ 第1番、第2番」 ビオラ:キム・カスカシャン ピアノ:レバイン ヒンデミット 「3つのビオラソナタと4つの無伴奏ビオラソナタ」 ビオラ:キム・カスカシャン ピアノ:レバイン
レーガー 「無伴奏ビオラ組曲 作品131 第1番〜第3番」ビオラ:ボルフィッシュ (1969) DaCa ショスタコーヴィッチ 「ビオァソナタ作品147]  ビオラ:シュロモ・ミンツ ピアノ:ポストニコバ (1991) ERATO
レーガー 「無伴奏ビオラ組曲 作品131 第1番〜第3番」ビオラ:ボルフィッシュ ショスタコーヴィッチ 「ビオァソナタ作品147]  ビオラ:シュロモ・ミンツ ピアノ:ポストニコバ 



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