先日ある真空管アンプ友の会(仮称)の試聴会に行った。オーディオ雑誌「無線と実験(MJ)」の巻末によくある案内を見てのことである。各県で1つや2つの真空管愛好会が存在して定期的に自作真空管アンプを持ち寄って試聴会というものをやっているようである。大きな実績のある愛好会ではオーデイオ評論家やアンプ製作者を招いて講演会と試聴会をやっている。自分の音の好みやオーデイオシステムが固まりつつあるが、はたして他の人はどんな音で聞いているのか(秋深し隣は何をする人ぞ)、別の世界を知りたくて参加したわけである。さる市の公民館の視聴覚室(ひな壇式の講堂になっていて100人は入れる)で開催された。関係者の準備の苦労は察するにあまりある。システムの詳細は省略するがホーンはALTEC1505B、MAXONIC HS401であった。アンプは自作真空管パワーアンプ9台である。出力管にはEL34, 6L6, 50CA10, 6GB8, 7581, 845などのおなじみの管を使用したプッシュプルアンプである。さて試聴会に参加した印象と感想を以下の3つに集約して述べさせていただく。初めての参加経験なので他の試聴会がどのようなやり方で運営されているのかは知らない。一般論ではなく特徴は極めて特殊な物であったかもしれない。

1)日常的にありえない音量をだして音楽が分かるのか

この会の第1印象は恐ろしく大きな音量で鳴らすことであった。まるで野外ステージのスピーカの前で聞いているようで主催者には悪かったが思わず耳をふさいでしまった。冷や汗が出るほどの音量で鼓膜が破れる前に気が狂いそうであった。他の試聴会もこのようなものであろうか。室内楽の演奏に適した規模の視聴覚室なのだがなんでこんな音量でスピーカをドライブしなければならないのか理解に苦しむ。マイクを使わない演奏会での音量ははるかに小さい音で演奏されている。数年前につくば市のノバホールで聞いたクイッケン四重奏団+寺神戸亮の「モーツアルト弦楽五重奏の会」はホールが大きすぎたためもあるだろうが(2000人規模)とても小さい音量であった。耳に手をあてて音を集めたほどであった。同じホールでのグスタフレオンハルトのチェンバロ演奏会もしかりであった。最近の人はすでにマイクとアンプ・スピーカを介した演奏会しか知らないのであろうか。ジャズやポップのコンサートで楽器の縁に小型マイクをつけてアンプで大音量に拡大した演奏は既に生演奏ではなく、オーデイオシステムで聞いているのと同じであろう。私としては生の音以上に音量はいらない。マイクをつけて謳うオペラ歌手はいないはずである。マイクを介さないと形を成さないのは力がないためで、なにかを誤魔化している。さる高名な男性4人のコーラスのコンサートもアンプとスピーカを介した大音量であった。あまりのひどさにその席を立ったほどである。目の前でギターやピアノ、チェロを聞いたときの音量でいいではないか。適量の良い音になっている、それで気が狂うひとはいない。またCDについてもしかりで最近SACDが流行してから録音音圧が非常に高くなった。元気の良い音で売ろうとするのは分かるが、単に音圧だけの問題で人に音がいいと錯覚させる手は詐欺に近い。いつも急いでボリュームを下げるのは私一人ではなかろう。まだボリュームを下げられるのは救われるが、演奏会の大音量は会場から避難するか耳栓をする以外に逃げ様がない。今回の試聴会の関係者の耳のセンスははたしてどうなっているのだろうか。大音量のスピーカをドライブできる出力を誇るための真空管アンプの試聴会なのか。ほんらい真空管アンプのよさは柔らかい音と繊細な音にあったとすれば、これは邪道ではないか。映画館用のオーデイオシステムを目指しておられるとすれば何もいうことはない。

2)オーデイオの作る音はスピーカで決まる・・・アンプの比較にはなっていない・・・

オーディオ雑誌でオーデイオデバイスの音質評価特集がよく組まれる。まるでその装置のために音質が決まったような書き方は笑止千番である。アンプやCDプレーヤならまだしも、接続ジャックやコードがすばらしい音を出すような書き方は詐欺である。私の持っているシステムにどんな高価なケーブルを持ってきても意味をなさないのは自明であろう。オーデイオ雑誌の評論家には悪いのだが、よくもあんな提灯記事が恥ずかしげもなく書ける物だといつも感心している次第である。私は経験的にオーデイオシステムの音質を決定する最大の要素はスピーカであると確信するに至った。オーデイオシステムの中で最後に空気を振動させて音を出すのはスピーカである。そういう意味ではスピーカは楽器である、まちがっても電気電子機器ではない。スピーカ以外は電気電子機器である。電気電子機器の進歩は著しい。日々限りなく再生技術は進歩している。スピーカの進歩がないわけではないが、バイオリンやチェロ、ピアノが日々進歩しないのと同じくスピーカも変ってはいけないものであろう。私の独断でいえばスピーカはなぜか英国製に止めを刺し、アンプは米国製に止めをさし、CDは日本製に止めを刺すと言ってしまおう。私の持論であるが、オーデイオシステムの選定手法は先ず最初に自分の好みの音楽ジャンルと好みの音質を決める事です。そしてそれにあったスピーカ(B&W,アルテック、タンノイ等)を選定することが2番目です。ジャズ、クラシック、声楽などにあったスピーカブランドが存在します。そして高音の繊細さをもとめるのか、低音の響きを楽しむのかによってスピーカシステムを選択します。そして第3番目にそのスピーカをドライブする電気電子機器群(アンプ、CDプレーヤ、LPプレーヤ、イコライザー、ネットワ−クなど)を選定します。アンプはこのように3番目か4番目です。必ずしも真空管に拘るまでもなく、アキュフェーズ、ラックスマンなど柔らかい音を出す事を社命とする半導体オーデイオメーカも存在します。真空管は一種マニアックなセピアな領域を楽しむ人のために存在します。とはいえ私も真空管の魅力に惹かれております。従ってこの会で自作アンプの比較試聴はパワーの違いこそあれ音質の顕著な差異は認められなかった。スピーカでほとんど音質が決まっています。それが結論です。

3)好みの音楽ソース・CD・オーデイオルーム・オーデイオシステムの総合で好きな音を作れば良い

前のオーデイオシステム選定手順に書いたように一番大切なことは自分の好みの音楽ジャンルと自分の生理にあった音質を自分なりに確立することです。これは言うは易く、ジグザグに求めてゆくしかないかもしれません。それが自分の文化であり、逆に到達点なのかもしれません。オーディオシステムの迷路に迷い込んだときの原理原則になります。お金に任せて何でも買って経験できるわけではありません。医者か資産家の息子みたいに数十畳の地下防音オーデイオルームに1本数百万円のスピーカ、これまた数百万円のアンプ、CDプレーヤを惜しげもなく並べ立てることは普通の人にはできません。結局は自分の好みに合えばそこで納得すべきでしょうか。音質の向上を狙って無限地獄に入り込む資金も時間も残されてはいません。大事なのは人の意見ではなく自分の好みなのです。その意味で今回の試聴会は少なくとも私の好みではないことがわかりました。ほかに面白い真空管アンプ試聴会があれば教えてください。



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