ヘッドホーンアンプキットの製作と試聴記


半導体アンプと真空管式ヘッドホーンアンプの比較
・・・・・・女性ボーカルを中心にした試聴記・・・・・・

ヘッドホーンは夜遅く本を読みながら、またウイスキーを飲みながら、さらにキーボードを叩きながら音楽を楽しむための必需品です。CDプレーヤーにもヘッドホーンジャック口がありますが、また半導体アンプにもヘッドホーン出力はあります。なぜ真空管アンプにヘッドホーン出力が無かったのか不思議でした。それは残留ノイズ(暗雑音:入力が無くても"ジー"と出る雑音)を許容レベル以下にするのが真空管の場合特に難しいからです。とはいえLPレコードにも"ザー"という針が盤面をこする音が必ず出ます。これを消すことは不可能です。レコードが古くなればなるほど大きくなります。またそれがいいんだという人もいます。最近「無線と実験 M.J」という真空管オーディオ誌にヘッドホーン出力専用・兼用真空管アンプが取り上げられることが多くなりました。さらにヘッドホーンに室内用スピーカシステムにはない独特の世界を見出す人もいます。柳沢正史氏は「ヘッドホーンはスピーカの補助装置ではありません。ヘッドホーンにはスピーカーで聞くのとはまた違った、別の世界があることを再認識させてくれのが真空管アンプです。」といっています(MJ誌04.9月号)。

1:真空管式ヘッドホーン兼用アンプキットの製作・・・・サンバレー社真空管アンプキット(super Sub)

サンバレー社真空管アンプキット(super Sub)6EM7プッシュプルアンプは、テレビ垂直発振3極管として使用されていた6EM7管を用いたアンプです。電圧増幅と3極出力管が同居している不思議な複合真空管ですが、複合管のために自由な設計に制約があり、定格のばらつきが大きく許容されているのが欠点です。6EM7プッシュプルアンプは長真弓著「真空管アンプ製作自由自在」(誠文堂 2000年)8章に製作例があります。サンバレー社真空管アンプキットの回路図を下の表に示しましたが、ほぼ長氏の回路と同じです。それだけ自由度が無いとも言えるわけです。長氏の設計ではネガティブフィードバック無しの15Wアンプで回路はきわめて簡単ですが、残留雑音は1.5mV(8Ω)とかなり大きくダンピングファクター1.5になり、これが魅力的な音にもなりまたスピードや大編成のオケにはうまくないという欠点にもなるというものでした。本機の仕様は下の表の右に示しましたが、出力は8Wという控えめに設計されており残留雑音0.2mV(8Ω)とされています。
売り出されているヘッドホーン出力専用・兼用真空管アンプは非常に少ないので(高価なものなら山本工芸社にある)、今回サンバレー社6EM7プッシュプルアンプキット(super Sub)を購入し表中段の2枚の写真に示すように1日で組み立てた。コンパクト設計のため配線に手間取ったが意外と簡単であった。電源部・真空管部の電圧配分をテスターで測定し10%以内であったので早速試聴に入った。

ヘッドホーンアンプ製作と試聴システム
6EM7プッシュプル真空管アンプ(キット名:サンバレーSuperSub)回路図 6EM7プッシュプル真空管アンプ仕様
1.使用真空管:GE製6EM7×4
2.定格出力:8W+8W(0.25Vrms入力時)
3.周波数特性:10Hz〜40KHz(-3dB,1W,8Ω)
4.残留ノイズ:0.2mV(8Ω)
5.適合スピーカー:標準8Ω(ヘッドホーン兼用)
6EM7プッシュプル真空管アンプキット完成間際の写真 6EM7プッシュプル真空管アンプ実配線拡大写真
ヘッドホーン試聴システム ヘッドホーン試聴システム装置名
上より装置名を記す。
  • 6EM7pp真空管アンプ(Super Sub)
  • ヘッドホーン:ビクタHP-M1000
  • CDプレイヤー : フィリップス LHH3008
  • 半導体アンプ :サンスイ AU-α907XR

  • 2:ヘッドホーンによる試聴結果

    真空管アンプには6EM7pp無負帰還プッシュプルアンプ(Super Sub)(8W)を使用し、半導体アンプにはサンスイ AU-α907XR(160W)を使用した。ヘッドホーンはビクタHP-M1000 モニター用、CDプレイヤーはフィリップス LHH3008を使用した。ヘッドホーン兼用真空管アンプと半導体アンプの比較を行うことが目的である。そして試聴CDは今回私の好みである女性ボーカルを中心に下記のCDを用いた。

    1. 中島みゆき 「おかえりなさい」 PONYCANYON  1979
    2. 綾戸智絵 「To You」  EWSA  2003(Hybrid)
    3. ペルゴレージ作曲  「スターバト・マーテル」 アバド指揮ロンドン交響楽団  ソプラノ:マーシャル  アルト:テッラーニ  ドイチェグラモホン 1983
    4. ベートーベン  「交響曲第3番英雄」 アバド指揮ベルリンフィルハーモニー   ドイチェグラモホン 2000
    5. バッハ 「無伴奏バイオリンソナタとパルティータ2番」  寺神戸亮   DENON 2000

    半導体アンプの音はやはり私の鼓膜には耐えられない。半導体アンプには当然ながら残留ノイズは全くないので、音量を落とせば聴けるような気もする。6EM7pp無負帰還プッシュプルアンプ(Super Sub)(8W)にはなんとも言えない声のつやと生なましさがあり、「中島みゆき」のパンチがあって切ないまでに悲しい声が、「綾戸智絵」には声帯の震えとピアノの中に頭を突っ込んだような迫力が感じられ、「スターバト・マーテル」では2人のソプラノ・アルトの声が天にも届くような美しさ、「英雄」では出だしのオケがすばらしく響いた、「無伴奏バイオリンソナタとパルティータ」ではバイオリンの弦の残響がいつまでも粘りこく耳に心地いい、こんなきれいな音色のバイオリンを聴くのは初めてかもしれない。ということで1にも2にも真空管アンプに軍配が上りました。ただし音が出ていないとき残留ノイズがジーと聞こえるが、音が出れば何も聞こえない。ふつうのフロワースピーカでも耳を近づければジーという音は聞こえます。数メータ離れて聞きますのでノイズは聞こえないだけです。ヘッドホーンはその点耳の近くに振動板がありますのでノイズが気になるのです。

    後日版:残留ノイズ対策-1(04.9.13)

    週明けにサンバレー社の技術に電話して残留ノイズ対策を相談した。ジーというノイズは整流ダイオードの発振や電源トランス(Rコアー型漏磁対策済み)によるものかもしれないので、絶縁用布とテープを貼り付けた薄い鉄板で信号シールド線を隔離した。これによりジーというノイズはきれいに無くなった。しかしまだわずかにワーという雰囲気が残っている。まああ・・・・・これぐらいなら勘弁してやれる。

    後日版:残留ノイズ対策-2(04.9.16)

    残留ノイズ対策として「ジー」というノイズが整流ダイオードに起因するらしいこととその対策のため鉄板によるアンプ内部のシールドについて9月13日に記述した。しかしまだワーというかブーンというような雰囲気ノイズは残っていた。そこで鉄板の位置や、配線を束ねて整理したり、交流配線を捩ったり、信号配線をケース壁に沿わせて貼り付けたりしていろいろ工夫してみたがいまいちノイズは減少しなかった。また対策して再びケースをねじ止めし電気を入れてノイズをチェックするのも手間がかかる。そこで上の写真に見るようにケーシングと電源部底盤に分かれた状態で電気を入れ、CD信号は結合せずヘッドホーンは装着してノイズを聞きながら配線の位置関係やケーシングのマウンティング過程をチェックした。ヘッドホーンをノイズ検知器として、組み立て過程での影響をチェックできることに気がついたわけである。すると2つのケースをバラバラにした写真中段左の状態では全くノイズは発生しないことを発見した。「なんだ全くノイズレスにすることも出来るのではないか」と知って驚嘆した。そしてシールド鉄板は除去してケーシングのマウンティング過程でのノイズ発生をチェックすると、最終の底盤のねじ止めの過程でノイズが出始めることが分かった。ノイズ発生源とノイズ誘導を拾う部品が何であるかは分からないが極めて近接していることがわかる。ノイズ発生の影響が出るかでないかは1mm以下のレベルで決まるらしい。そこで最終的にはノイズの耐えられるレベルでのねじ止めをした(6本のねじのうち3本だけを使用し、底盤との隙間を付けるため厚紙を挿入)。コンパクト設計でケーシングを小さくしたことと、CD架台を付けるというデザイン上の要求から前面ケースを斜面にしたため内部空間が縮小したことによる部品の接触あるいは近接があるためだ。ケースをもう1cmほど大きくすればすべて解決したはずだ。ただし本方法では電気を入れたままむき出しの状態からセットしてゆくので手が触れると数百ボルトDCでビリっとくるのでご注意のほど。ゴムの手袋は汗でびちゃびちゃになりますがしたほうが心臓にはいいですよ(止まりかけた心臓にはショックもいいかも)。

    後日版:残留ノイズ対策-3(04.9.25)

    「無線と実験MJ誌」10月号p100に橋詰真一氏「実践ノイズ対策」という記事があった。記事には周波数100KHz以上のテレビ、パソコン、液晶デスプレー、放送通信、整流などの家電製品発生源の対策が書かれてあった。ところがいまオーディオで問題となるのは低周波10Hz〜50KHzの領域の振動にどういう機構で影響するのか、ザーという雑音で入るから問題なのか、信号のひずみになるのかよく分からない。またAMポケットラジオの515kHzでチェックするということはどういうことなのか、そんな高い周波数の雑音信号を問題にしてどういうことかよく分からない。よく分からないがAMポケットラジオで私の部屋の中の電気機器をチェックした。蛍光灯,白色電灯、コンセントや100V電力線、パソコン、アンプ、CDプレーャスピーカなどを調べたが、ザーという雑音が極めて強くなるのは、CDプレーヤのデスク取り出し口、パソコンデスクトップ本体であった。ついでパソコン液晶デスプレー、スピーカの信号ケーブル接続端子部(スピーカーネットワーク回路の影響か?)が比較的大きいかなと思った。半導体アンプや真空管アンプ完成品周りはほとんど雑音は発生していない。蛍光灯、白色電灯や100V電力線、コンセント付近では発生していない。無論私のオーデイオ部屋とパソコン部屋は分けてあるので問題とならない。ということで発生源の電気を切れといわれても、それではCD装置は動かない。皮肉な話だがオーデイオ装置関係の雑音発生が一番大きいという結果であった。おそらく装置の中の部品(ダイオード、トランスなど)の発生が大きいのであろうが部品間ではシールドされているため相互影響は阻止され外部へは漏れないのであろう。オーデイオ装置外部機器からの影響は少なく、オーデイオシステム内の相互影響を考えれば、装置内のシールドと装置を離す事が対策であろうか。


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