非常な説得性を持った音を響かせるピアノ演奏がある。それはエミール・ギレリスのベートーベン「ピアノソナタ第5番ハ短調」(1982年ドイツグラモフォン)とグレン・グールドのバッハ「6つの小プレリュード、3つの小フーガ」(1980年SONY)および「イタリア協奏曲」である。いやでも心の隅々に沁み渡る不思議な演奏である。今回はグレン・グールドのバッハ演奏を取上げる。
グレン・グールド(1932-1982)はカナダトロントの出である。グレン・グールドが20世紀後半における最高峰のピアニストといえると同時にこれほど摩訶不思議な言説を編み出し人も前代未聞であろう。彼のバッハ「ゴールドベルグ変奏曲」(1982版)は日本だけでクラシック業界では驚異的な50万枚の売上が記録された。さらに彼に関する本も枚挙に暇がないほど多数出版された。恐らくグレン・グールドのファンには彼の音楽に哲学的趣きを期待する人が多いのも特徴であろうと思われる。
グレン・グールドに関して、演奏会の拒否、孤独、隠遁、沈黙、狂気、生活の矛盾、身体、演奏姿勢、耳障りな鼻歌、心の沈降、自由な演奏形式、ヒロイズムの拒否、時間性(テンポ)の無視、ピアノを感じさせないピアノ演奏、演奏の美(レガート演奏)、他者との距離の存在、色彩の消滅(骨格の美)、反官能的(中性的)音色、死後の神格化、思考の眼の内面化、トロントでの隠遁的生活逸話、自分と他人の隔離(孤高)、内的音楽の追求、演奏の精神性、音の消滅と緊張感、バッハ「ゴールドベルグ変奏曲」のフーガ技法への(対位法)への傾倒、バッハ「ゴールドベルグ変奏曲」デジタル録音と死、世界の不在としての内部音楽などのキーワードで論じられることが多い。
グレン・グールドにとってバッハが中心的な主題である事は明白である。グレン・グールドのバッハ演奏の特徴として
@後期ロマン派的演奏を排斥した。カザルス等のような情緒的な演奏とは無縁である。
A脱色彩的で構造的な透明性に心がけた。
B最近流行の古楽演奏には全く興味はなかった。バッハをチェンバロではなくピアノで弾く理由を理論的に明らかにした。しかし自分の演奏については何も語らなかった。
グレン・グールドはバッハの鍵盤楽器曲をすべて録音したと言われている。私が持っているグレン・グールド演奏は全てSONY(CBS)発売によるもので73枚のCDを聞いた。そのうちバッハ演奏は26枚で、ベートーベン演奏は16枚、モーツアルト5枚、ヒンデミット5枚他である。一人の演奏家でこれほど数のCDが出ているのも稀有なことであろう。難解な演奏家でかつ話題性と人気があるのは不思議な現象である。
グレン・グールドは32歳でコンサート活動を拒否し、以降スタジオ録音のみで活動した事はあまりに有名な話である。飛行機嫌いでアメ車をぶっ飛ばすことも逸話になっている。なんだかんだと話題の多いひとではあるが、音楽に精神性を求めるクラシックファンには欠かせない天才である。


参考までに私が持っているSONYのグレングールド全集CDリスト[PDF版]を示します。
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グレン・グールド バッハ ピアノ曲演奏CDより
 
バッハ「小プレリュードと小フーガ集」  ピアノ独奏 グレン・グールド(1979,1980) バッハ「ゴールドベルグ変奏曲」BWV988  ピアノ独奏 グレン・グールド(1981) 
バッハ「小プレリュードと小フーガ集」  ピアノ独奏 グレン・グールド バッハ「ゴールドベルグ変奏曲」BWV988  ピアノ独奏 グレン・グールド
バッハ「パルティータ」BWV825-830  ピアノ独奏 グレン・グールド(1957,1962) バッ「トッカータ」BWV825-830  ピアノ独奏 グレン・グールド(1963,1976)
バッハ「パルティータ」BWV825-830  ピアノ独奏 グレン・グールド バッハ「トッカータ」BWV825-830  ピアノ独奏 グレン・グールド



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