チェロの先祖はビオラダガンバと考えている人が多いが、バイオリン族(バイオリン、チェロ)とガンバ族(ビオラダ・ガンバ、コントラバス)は全く別系統である。バイオリン族は腕(ブラッチョ)に構えるが、ガンバ族は足(ガンバ)に挟んで演奏する弦楽器である。チェロはバイオリン族の低音楽器であり、コントラバスはガンバ族の最低音楽器である。ガンバ族は羊の腸の弦(ガット弦)を6本張る。バイオリン族は4本である。したがってガンバ族は和音奏法に威力を発揮する。弓の持ち方もバイオリンとは違い下から支え持つので弓の張り具合を調整しながら演奏でき微妙な弓奏法が可能となる。しかし力強く空気を振動させるバイオリン族に比べて、ガンバ族は箱なりのする鈍い独特の音色を形成し柔らかく空気を振動させる。またガンバ族は音量的に弱く大きな編成では聞こえないため主に室内でのサロン演奏会でのみ用いられたが、貴族社会のサロン演奏会が姿を消し18世紀後半からコンサートホールでの演奏会が主流になってくると次第に消え去ってしまった。すなわちビオラダ・ガンバはルネサンス・バロック期の音楽にのみ通用する楽器である。ビオラダ・ガンバの音は弱く・柔らかく・暗く、いつ果てるともしれない弦の微妙な振動に身を任せると時間の感覚させ失せてしまうようだ。
ビオラダ・ガンバの曲ではやはりマリン・マレーが中心になる。特に1686,1701,1711年に作曲したバスガンバの作品集が白眉である。我が大バッハも3曲のビオラダ・ガンバソナタを残してくれた。ただしソナタ第1番BWV1027は「2本のフルートとチェンバロのためのソナタ」BWV1039と同じである。
このバッハのビオラダ・ガンバソナタをオリジナル楽器で演奏するCDと、現代楽器で演奏するCDがある。ひとつは ビオラダガンバ:リン・ハレルとチェンバロ:イゴール・キプニスによるオリジナル楽器演奏で、もうひとつはチェロ:ミッシャ・マイスキーとピアノ:マルタ・アルゲリッチによるバリバリの現代演奏である。リン・ハレルは米国ジュリアード音楽院の優等生で、ミッシャ・マイスキーは旧ソ連で政府に逆らったかど(?ユダヤ系)によって3年間強制収容所に送られた反抗の士である。亡命ユダヤ系ピアニスト・アシュケナージと懇意である。同じ境遇で気が合うのだろう。彼がアルゼンチンの女帝マルタ・アルゲリッチと組んでバリバリの現代演奏でバッハを演奏する。これは見逃せない。
私のオーデイオシステムを下の写真に示す。タンノイスターリングを4極ビーム管6L6GCppアンプ(40W)でドライブした。
CDプレーヤ:TEACのVRDS-50:フルエンシー理論(20KHz再生)RDOT類推補間技術、VRDSメカニズム 真空管式コントロールアンプ:サンオーディオSVC-200: ECC82×2本 10Hz-100KHz タムラSPT-P1 メインアンプ:4極ビーム管6L6GCppアンプ(40W):マッキントッシュ MC240(上の右の写真) スピーカ:タンノイ スターリングHE:10インチ同軸2ウエイ、能率91dB、クロスオーバ1.7KHz、35Hz〜25kHz スーパツィーター:タンノイ ST-200: 25mmチタンドーム型、能率95dB、18KHz〜100KHz |
ビオラダ・ガンバによる演奏は柔らかく繊細であるが、一面沈み込むような音色と弱音演奏を宿命とするところから内省的な暗いムードが漂う。そこをチェンバロの高貴なリズムがどこまで曲を盛り上げるかという興味が尽きない。一方チェロとピアノによる演奏は一挙に派手になり目鼻立ちのはっきりした美人に変身する。ビオラダ・ガンバによる演奏とは別の趣になる。上昇傾向の人には現代演奏が向いていること請け合いである。内省的な人にはビオラダ・ガンバによる演奏のほうが深遠で心が癒されること請け合いである。さてあなたはどちら?
バッハ 「ビオラダガンバソナタ」BWV1027〜1029 ビオラダガンバ:リン・ハレル チェンバロ:イゴール・キプニス 1988 DECCA |
バッハ 「チェロソナタ」BWV1027〜1029 チェロ:ミッシャ・マイスキー ピアノ:マルタ・アルゲリッチ 1985 グラモホン |
録音方式が分からないが ビオラダガンバが中央にそしてチェンバロがごくわずか右にいるように聞こえる。 |
位置関係は左からピアノ、右からガンバが聴こえる。アルゲリッチは雷のようなピアノを抑制してうまくチェロを盛り上げて好感が持てる。 |