ブルックナーの交響曲を聴く


 ・・・金管楽器の鳴り響く世界はいかが・・・

ブルックナー 交響曲第8、第7


アントン・ブルックナー(1824〜1896)といえば、私は金管楽器が鳴り響く気宇壮大な世界を描く一連の系列であるワーグナーとグスタフ・マーラの直線状にあると考えていた。つまりドイツ後期ロマン派と位置つけていた。大体はそれでいいのだが、各々の描く世界は大きく異なっている。ワーグナーは神話の世界、アントン・ブルックナーはキリスト教的天国の世界、グスタフ・マーラは人間界である。金管楽器は弦楽器中心の音楽と違って派手で高貴な世界を象徴するにはいい楽器である。バッハの時代からカンタータ演奏では神や王侯貴族の登場場面ではトランペットを鳴り響かすことが常であった。それほど天国的な音ではあるが、精神的深みがなく場合によっては耳に障る音でもある。私にはいやな楽器である。ホルンを除いて金管楽器は皆嫌いだ。したがってジャズも好きになれない。ということからブルックナーの交響曲はすべて聴いてはいたがいまいち好きになれなかった。弦楽器とは全く違う聴覚神経の刺激の仕方をする。

乱暴にアントン・ブルックナーの交響曲の特徴を纏めると次のようになろうか。@金管楽器がやたらうるさい。アダージョぐらいで美しい弦楽器のユニゾンが聴けるくらいか。A短調の曲が多い。全9曲のうち5曲が短調である。モーツアルトは全41曲の交響曲のうち短調は2曲のみである。ベートーベンでは全9曲の交響曲のうち5番と9番の2曲のみである。シューベルトでは全9曲のうち短調は2曲のみである。アントン・ブルックナーの交響曲は意識的に勿体をつけた曲が多い。B改定が多いこと。改定したものは第1番、第2番、第3番、第4番、第8番である。気の弱いブルックナーは人の意見に惑わされやすい欠点があった。聴く場合は版にご注意。C交響曲の着想/方法が第1番以来同じであること。つまり同じような交響曲を繰り返しして深めてゆくことが特徴であった。聴くほうからすれば分かりやすいことでもあり、つまらないことでもある。DCDをスタートして最初の10秒近く何も聴こえてこない。あまりに弱音でスタートすることが特徴。決して故障ではなくボリュームを上げるとドカンと音が出てくるからご注意。E長大な曲が多いことが特徴。60分以上かかる曲では第2番、第3番、第4番、第5番、第6番、第7番、第8番、第9番であり、70分以上の曲は第2番、第3番、第4番、第5番、第8番である。途中で切らないでくださいといっても、あまり長い緊張は不可能であるが、まー別のことを考えていればいいか。

これまで聴いたアントン・ブルックナーの交響曲のCDを下に記した。私がいいなーと思ったのは、第5番のフィナーレ、第7番のアレグロ(第1楽章)とアンダンテ(第2楽章)、第8番のアダージョ(第3楽章)とフィナーレ(第4楽章)であった。宇野功芳さん(「交響曲の名曲・名盤」 講談社現代新書)によると、アントン・ブルックナーの交響曲では最高傑作は第8番であるそうな。古今の交響曲でも名曲のひとつであるといっておられる。「アントン・ブルックナーの第8交響曲は神の御業を思わせる。ほとんど大自然や大宇宙の音楽を想像させるのである」。アントン・ブルックナーは第9番を神にささげたそうであるので、心して聴け。宇宙の響きといえばホルストの「惑星」も同じ系統の音楽でやたら金管がうるさいかったっけ。キーンと響く超高音域に正常な神経が切れて神がかりになるそうです。お気をつけてください。



ブルックナー交響曲の私的聴きどころ

1)交響曲 第1番 ハ短調 

特に第2楽章と第3楽章が特徴的である。第2楽章アダージョは北欧を吹き抜ける透明で美しい風のように聴こえる。第3楽章スケルッツオは気分がわくわくするチャーミングな曲である。

2)交響曲 第2番 ハ短調

さすがにブルックナー的深みのある曲である。第1楽章はチェロによる寂寥感がなんともいえない。第2楽章は弦楽合奏が田園風景の淋しさを表現している。第4楽章フィナーレは厳しくも深いブルックナー的世界で、ミサ曲のテーマも入れて祈りに満ちた世界である。

3)交響曲 第3番 ニ短調 

手法は同じなのだが、さらに内容が広く深くなったようだ。第1楽章の金管楽器が多少うるさく感じるが、壮絶、多彩さが情景を変化させつつ面白い。

4)交響曲 第4番 変ホ長調 「ロマンティック」 

森の標題音楽で分かりやすく親しみやすい反面、内容が薄く感じる。

5)交響曲 第5番 変ロ長調 

ブルックナーのスケールが一段と大きくなる曲である。第5番はその造形の堅固、響きの厳しさ、硬さと分厚さ、力強さなどまさにブルックナー交響曲の白眉といえる。とくにフィナーレは大編成のオーケストラの饗宴でありその響きには感銘をうけた。

6)交響曲 第6番 イ長調 

特にコメントは無い、前期の繰り返しのような曲である。

7)交響曲 第7番 ホ長調 

ここからブルックナーの後期が始まる。第1楽章アレグロと第2楽章アンダンテに興味を覚えた。第7番は平坦で規模も小さくフィナーレの感動がない。第3楽章スケルッツオの宇宙の鳴動には魅力的と感じる人もいるかも、私にはうるさいだけ。

8)交響曲 第8番 ハ短調 

第3楽章アダージョと第4楽章フィナーレはさすがにすごいと感じた。好き嫌いはあるが、こういう壮大な宇宙を表現する傾向の交響曲ではピカ一であることは否めない。

9)交響曲 第9番 ニ短調

フィナーレの無い未完成の曲である。最後の曲だから神への愛や奥深さ、神秘さを強調する評論家は多いが、所詮そんなものを信じない私にはつまらない曲にしか見えない。


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