ベートーヴェンのピアノ協奏曲を聴く


 ・・・ウラディーミル・アシュケナージの華麗なピアノはいかが・・・

ベートーヴェン 「ピアノコンチェルト5番」


上のCDカバーはピアノ協奏曲第5番である。何か奇怪な顔が映っているが、恐らく是はベートーヴェンのデスマスクだろうと思う。最も人気の高い作曲家ベートーヴェン(1770-1827)のピアノ協奏曲はわずか5曲で、しかも初期から中期の作品群(25歳から39歳)である。1802年の「ハイゲンシュタットの遺書」の転機を挟んだ時期である。若々しい古典派の時期から壮年のベートーヴェンを確立しロマン派への兆しを見せる時期にあたる。そういう意味でわずか5曲のピアノ協奏曲からベートーヴェンの曲風の変化が読み取れる作品群である。第2番は最初に出来たピアノ協奏曲であり古典派モーツアルトの影響が顕著な明るく軽快な協奏曲になっている。第1番はモーツアルトとベートーヴェンの過渡期的作品である。第3番からベートーヴェン的特長が確立され壮大で意志の強固な作品に変化した。第4番と第5番が最も親しまれているピアノ協奏曲で深みがあり壮大である。

アシュケナージは1972年にサー・ゲオルグ・ショルティと組んでピアノ協奏曲全集を録音しているが、私は持っていないから云々できない。このCDのピアノ協奏曲全集は1983年から1年足らずに録音を完成させたアシュケナージの第2弾である。ここにおいて持ち前の繊細なデリカシーと卓越したピアノテクニックの上に豊かさを獲得したといわれる。アシュケナージの演奏の特徴は透明な美音を駆使して微細なニューアンスを表出することにある。けっして骨太な音や、アルゲリッチのような鋭い切り込みを求めるものではない。オーケストラはズービン・メータ指揮ウィーン・フィルハーモニ管弦楽団であることからして繊細と豊かさが主眼点になっていることは間違いない。弦の豊かな響きとピアノの華麗な動きがうまくいっている稀有な演奏ではなかろうか。

下に私が聞いたウラディーミル・アシュケナージ演奏のベートーヴェンピアノ協奏曲のCDを記す。すべてLONDONによる。簡単な聴き所を併せて記した。

  1. ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調 作品15(1798年)
     ピアノ:ウラディーミル・アシュケナージ ズービン・メータ指揮ウィーン・フィルハーモニ管弦楽団 1984録音 DDD LONDON
    青春の薫り高き作品である。旋律の美しさに富み、オーケストラとの会話が見もの(いや聞き物)で、モーツアルト風の魅力を持ちながらベートーヴェン風の壮大さが兼ね備えた作品である。特に終楽章の飛び跳ねるようなピアノのリズムが印象的である。
  2. ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 作品19(1795年)
    ピアノ:ウラディーミル・アシュケナージ ズービン・メータ指揮ウィーン・フィルハーモニ管弦楽団 1983録音 DDD LONDON
    様式的にも古典的でモーツアルトの影響が顕著に見える。快活なリズム、明るい旋律が特徴だ。
  3. ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 作品37(1803年)
    ピアノ:ウラディーミル・アシュケナージ ズービン・メータ指揮ウィーン・フィルハーモニ管弦楽団 1983録音 DDD LONDON
    第1楽章からベートーヴェンの個性が出ている。第2楽章は純粋な古典音楽に徹している。第3楽章はゆったりとしたテンポで豊かな詩情があふれている。
  4. ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 作品58(1808年)
    ピアノ:ウラディーミル・アシュケナージ ズービン・メータ指揮ウィーン・フィルハーモニ管弦楽団 1983録音 DDD LONDON
    苦悩の後の深みや純化が見えるようでオーケストレーションはさらに豊かである。第2楽章の哀愁を帯びた叙情が特徴である。
  5. ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73(1809年)
    ピアノ:ウラディーミル・アシュケナージ ズービン・メータ指揮ウィーン・フィルハーモニ管弦楽団 1983録音 DDD LONDON
    ベートーヴェン中期のひとつの頂点をなす傑作である。堂々とした意思の堅固な性格が感じられいかにもベートーヴェンだ。この協奏曲は第5番交響曲「運命」の延長線上に存在する。

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