真空管アンプ(VP-3488)のキット製作と試聴記


真空管アンプ(VP-3488)と各種真空管式アンプの比較



(1)真空管アンプ(VP-3488)のキット製作

真空管アンプは電気特性では測り知れない音質を好む人には、なくてはならないツールになっている。私も10年前ほどからすっかり真空管アンプにこだわってきた。しかし金がないので贅沢なアンプを買い揃えるわけにもゆかず、かろうじて300B直熱3極管シングルアンプと、オーディオ愛好者では泣く子もだまるマッキントッシュの製品であるMC240を錆付き中古(25万円なり)で買うのが精一杯であった。定年になったので、お金をかけないで時間をかける真空管アンプキット製作を志した。お世話になっているのがサンバレー社「ザキット屋」です。手始めに6EM7ppアンプを組み立てた。トラブルもなく簡単に出来たので、その勢いで次には真空管アンプの定番(最も安定感のある評価の定まった)EL34とKT88の差し替え可能という有り難いキット製品にチャレンジしてみた。今回アップするのはサンバレー社とトライオード社の共同企画といわれるVP-3488(EL34とKT88のもじり命名)の製作記と他の真空管アンプとの音質比較を行ったので、稚拙ながら報告する。

@VP-3488プッシュプル真空管アンプ回路図 AVP-3488プッシュプル真空管アンプ仕様
1)使用真空管:増幅・位相反転管12AU7×4、 出力管EL34(またはKT88)×4
2)定格出力:EL34:30W+30W,KT88:35W+35W
3)周波数特性:15Hz〜50KHz(-1dB)
4)残留ノイズ:0.5mV前後(8Ω)
5)SN比:90dB以上
BVP-3488pp真空管アンプ実配線写真 CVP-3488pp真空管アンプ完成間際の外観写真
(電圧チェック後、真空管挿入前)
D真空管外観写真(左:EL34,右:KT88) Eバイアス電流設定メータ

@一番上の図にVP-3488 の回路図(紙面上電源部はのぞく)を示す。拡大してみてください。負帰還式NFBの5極管EL34(4極ビーム管KT88)プッシュプルアンプです。出力管のスクリーングリッドを出力トランスの一次側に接続するいわゆるウルトラリニアー接続で、位相反転部はカソード結合のムラード型です。NFBのため初段増幅が必要で複合管12AU7をダブルに使用している。位相反転部は同じく12AU7を1本で済ませている。そしてこのVP-3488の面白いところは自己バイアス電圧を可変抵抗で設定できることである(Ip=37mAに設定する)。
A図の一番上の右にVP-3488の仕様を纏めた。定格出力はEL34の場合公称30W+30Wである。周波数特性は15Hz〜50KHz(-1dB)で実用的に十分である。もっと周波数を広げるには高級な出力トランスが必要でお値段がぐっと高くなろう。残留ノイズが0.5mVと少し高いようだが、あまり神経質にならないでおこう。
Bキットの組み立ては結論的に非常に簡単でした。むしろこのキットは半完成品といってもいいような状態で入手でき、自分がやることは印刷配線基板に部品を組み込んだりハンダ付けすることだけだ。配線基板は電源平滑基板、右チャンネルの回路基板と左チャンネルの回路基板の3枚を別々に製作し、シャーシにセットすれば、後は引き回し配線を(結構たくさんあるが)間違いなくやればお仕舞だ。丸一日で完成した。
C真空管を挿入する前に電気を入れて電圧チェックをやる。まず焼けるような匂いや煙が出ないことを5分間見た。そしてフィラメント電圧は交流6.8V, B電源直流電圧は440V、バイアス直流電圧は-60Vなどをテスターで測定した。一般に定格電圧より約10%高い値であった。これで回路電圧関係は一応正常であることを確認した。図の中段左に電圧チェックを終了し真空管を挿入する直前の状態を示した。
D次に真空管を上部から挿入する。下段左の図にはスマートなEL34とがっちり安定感のあるKT88の写真を示した。EL34はトライオードのオリジナル、KT88はサンバレーのプライムチューブである(いずれも中国製であろうと思われる)。シャーシ右側面にある4個の可変抵抗を時計回りにいっぱい回してバイアス抵抗を最大にしておく。慎重にチューブを差し込んでから装置の電源スウィッチをオンすると青いきれいな発光ダイオードが灯る。
E2,3分して真空管が温まったら、シャーシ上面にある切り替えスウィッチをまわして1から4までのバイアス設定を行う。シャーシ右側面にある4個の可変抵抗を反時計回りに戻してゆくとメータの針が右へ振れ出すので丁度真ん中にセットする。これで35mAの電流が真空管に流れたことを示す。これですべて終了である。
Fハム雑音を見るために、約2時間真空管アンプに電気を入れてから音だしを行った。EL34、KT88共に入力がないと少しハム音が気になったが実用上は音が出れば何の問題もないのでちょっと様子を見る。CD入力を入れてまずは無難にいい音が出たので今しばらくエージングを実施し2日ほどしたら試聴テストを行う。


(2)真空管アンプ試聴方法

全試聴システム外観写真(私のオーディオルーム兼書斎)


トータル試聴システムの装置仕様(アンプは除く)
CDプレーヤ:TEACのVRDS-50、フルエンシー理論(20KHz再生)RDOT類推補間技術、ノンフローティングVRDSメカニズム
真空管式コントロールアンプサンオーディオSVC-200、 ECC82×2本 10Hz-100KHz   電源トランス タムラSPT-P1
メインアンプ:今回の5種の真空管アンプ
スピーカタンノイ スターリングHE、10インチ同軸2ウエイ、能率91dB、クロスオーバ周波数 1.7KHz、周波数特性  35Hz-25kHz
スーパツィータータンノイ ST-200、 25mmチタンドーム型、能率95dB(スターリングHEに対しては90.5dBを選択)、周波数特性カットオフ18KHzから100KHz


試聴真空管メインアンプ外観写真

@5極管EL34ppアンプ(30W)
サンバレー&Tri VP-3488
A4極ビーム管KT88ppアンプ(35W)
サンバレー&Tri VP-3488
B複合3極管6EM7ppアンプ(8W)
サンバレーSuper Sub

C4極ビーム管6L6GCppアンプ(40W)
マッキントッシュ MC240( 6L6GCはスベトラーナ)
D直熱3極管300Bシングルアンプ(7W)
アドバンス ステラ HC-1(300BはJ/J)


試聴CDソース

試聴に使用したCDソースは次の五枚であり、チェックする音の狙いどころを下に示した。試聴CDにはチェックできない項目がありそれはーでスキップした。この5枚のCDを5つのアンプシステムで試聴するため5×5=25回の試聴になる。CD毎に1枚のシートを作成した。ヘッドホーン試聴記の場合とは少し狙いを変えて選曲した。

  1. 中島みゆきアルバム「夜を往け」より「夜を往け」: PONY CANYON 1990・・・・・中島みゆきのパンチあふれるハードロックのビートを聴く。
  2. ベルゴレージ「スターバト・マーテル」より第12終章「肉身は死して朽つるとも」二重唱:アバド指揮ロンドン交響楽団 ソプラノ:マーシャル アルト:テッラーニ グラモホン 1983・・・・・アルト中音とソプラノ高音の天国的美声の響きを聞く
  3. ベートーベン「交響曲第5番運命」より第1楽章冒頭:カラヤン指揮ベルリンフィルハーモニー グラモホン1984・・・・・オーケストラの響きとダイナミックレンジの確認
  4. バッハ「無伴奏バイオリンパルティータ2番」より「シャコンヌ」冒頭:バイオリン寺神戸亮 DENON 2000・・・・・バイオリン弦の振動の明晰さと高音の伸びの美音
  5. バッハ「無伴奏チェロ組曲1番」冒頭:チェロ:アンナー・ビルスマ ソニー1979・・・・・チェロ弦の低音振動の哲学的響き
システムNo.
アンプ EL34pp(30W)
サンバレー(Tri)
VP-3488
KT88pp(35W)
サンバレー(Tri)
VP-3488
6EM7pp(8W)
サンバレー
Supe rSub
6L6GCpp(40W)
マッキントッシュ
MC240
300B直熱3極管シングル(7W)
アドヴァンス
ステラ HC-1
CDアルバム試聴:CD(各シート1〜5)を用意し、各シートにつき試聴システムを変えて約3分だけ聞いて5つのポイントについて◎、○、△の三段階相対評価を記録する。音楽は9割がた曲自体の内容で決定される。オーディオシステムの良し悪しを見るには曲にのめり込まないために出来るだけ短時間で判断する。なお当然だが判断に客観性はなく私の好みに過ぎない。
1:中島みゆき 「夜を往け」 シート1:1-1 シート1:1-2 シート1:1-3 シート1:1-4 シート1:1-5
2:ベルゴレージ 「スターバト・マーテル」 シート2:2-1 シート2:2-2 シート2:2-3 シート2:2-4 シート2:2-5
3:ベートーベン 「交響曲第5番」 シート3:3-1 シート3:3-2 シート3:3-3 シート3:3-4 シート3:3-5
4:バッハ 「無伴奏バイオリンパルティータ」 シート4:4-1 シート4:4-2 シート4:4-3 シート4:4-4 シート4:4-5
5:バッハ 「無伴奏チェロ組曲」 シート5:5-1 シート5:5-2 シート5:5-3 シート5:5-4 シート5:5-5



(3)真空管アンプ試聴結果シート

上の表「ヘッドホーン試聴方法」の下段の欄には各CD毎にシート番号を記入した。シート番号1:1-1とはCD1をシステム1で試聴した結果を示す。上表のシート番号をクリックすると下の各試聴シート結果表に飛ぶことが出来る。

試聴シート1:中島みゆき「夜を往け」より「夜を往け」
試聴システム/



評価ポイント
@EL34ppアンプ
サンバレー&Tri VP-3488
1-1
AKT88ppアンプ
サンバレー&Tri VP-3488
1-2
B6EM7ppアンプ
サンバレーSuper Sub
1-3
C6L6GCppアンプ
マッキントッシュ MC240
1-4
D300Bシングルアンプ
アドバンス ステラ HC-1
1-5
ダイナミックさ
繊細さ・分解能
中音のソフトさ
高音の伸び
低音の響き

[試聴シート1結果まとめ]

中島みゆきの強烈なロックビートの鋭いパンチ力を聴く。パンチ力という点では5つのアンプは合格であった。いずれのアンプも標準以上の音質を持っているので甲乙は付けがたい。EL34ppアンプの高音が少し硬いが、これはエージングの問題もあるのでペンディングとする。EL34ppアンプ、KT88ppアンプ、6L6GCppアンプの低音の響きが良いのはやはり出力が高いせいであろう。


試聴シート2:ベルゴレージ「スターバト・マーテル」より第12章二重唱
試聴システム/



評価ポイント
@EL34ppアンプ
サンバレー&Tri VP-3488
2-1
AKT88ppアンプ
サンバレー&Tri VP-3488
2-2
B6EM7ppアンプ
サンバレーSuper Sub
2-3
C6L6GCppアンプ
マッキントッシュ MC240
2-4
D300Bシングルアンプ
アドバンス ステラ HC-1
2-5
ダイナミックさ - - - - -
繊細さ・分解能
中音のソフトさ
高音の伸び
低音の響き - - - - -

[試聴シート2結果まとめ]

この12章の曲は前半が静かな祈りの曲、後半は「アーメン」の高い叫び声が聴こえる。低音やダイナミックさは存在しないので評価しなかった。満点はKT88ppアンプ、6L6GCppアンプの2つのアンプであった。いずれも高音の伸びが優れていた。


試聴シート3:ベートーベン「交響曲第5番運命」より「第1楽章」冒頭
試聴システム/



評価ポイント
@EL34ppアンプ
サンバレー&Tri VP-3488
3-1
AKT88ppアンプ
サンバレー&Tri VP-3488
3-2
B6EM7ppアンプ
サンバレーSuper Sub
3-3
C6L6GCppアンプ
マッキントッシュ MC240
3-4
D300Bシングルアンプ
アドバンス ステラ HC-1
3-5
ダイナミックさ
繊細さ・分解能
中音のソフトさ
高音の伸び
低音の響き

[試聴シート3結果まとめ]

この曲の出だしのダイナミックさを評価した。EL34ppアンプ、KT88ppアンプ、6L6GCppアンプは出力の高さから合格であった。特にKT88ppアンプは中低音の分厚さに特徴がある。6EM7ppアンプや300Bシングルアンプは交響曲のような分厚い響きには向いていないようだ。


試聴シート4:バッハ「無伴奏バイオリンパルティータ2番」より「シャコンヌ」冒頭
試聴システム/



評価ポイント
@EL34ppアンプ
サンバレー&Tri VP-3488
4-1
AKT88ppアンプ
サンバレー&Tri VP-3488
4-2
B6EM7ppアンプ
サンバレーSuper Sub
4-3
C6L6GCppアンプ
マッキントッシュ MC240
4-4
D300Bシングルアンプ
アドバンス ステラ HC-1
4-5
ダイナミックさ - - - - -
繊細さ・分解能
中音のソフトさ
高音の伸び
低音の響き - - - - -

[試聴シート4結果まとめ]

バイオリンの高音弦の聴き易さ(刺激的でなく)と繊細な表現力を聴いた。KT88ppアンプ、6L6GCppアンプ、300Bシングルアンプは満点であった。特に300BシングルアンプHC-1は柔らかくて聴きやすい弦の代表的美音であろう。またKT88ppアンプの粘り強い中音域も特筆ものである。


試聴シート5:バッハ「無伴奏チェロ組曲第1番」冒頭
試聴システム/



評価ポイント
@EL34ppアンプ
サンバレー&Tri VP-3488
5-1
AKT88ppアンプ
サンバレー&Tri VP-3488
5-2
B6EM7ppアンプ
サンバレーSuper Sub
5-3
C6L6GCppアンプ
マッキントッシュ MC240
5-4
D300Bシングルアンプ
アドバンス ステラ HC-1
5-5
ダイナミックさ
繊細さ・分解能
中音のソフトさ
高音の伸び - - - - -
低音の響き

[試聴シート5結果まとめ]

中低音域の弦は誰しもが聴きやすいものであるが、その中で繊細な表現力を比較した。当然であるがダイナミックさや高音域は問題としなかった。EL34ppアンプ、KT88ppアンプ、6L6GCppアンプは満点であった。6EM7ppアンプは聴きやすい音であるが、チェロらしい力強さがいまいちである。300BシングルアンプHC-1は低音がもこもこしているようで表現力に満足できない。





(4)私のシステムでの真空管アンプの音質を一口で言うと

音楽鑑賞で感銘を得られた場合の貢献度は曲自体にある優れた作曲家の天才が90%以上、演奏家の力量が5%、再生装置の貢献は5%以下である。第2次大戦以前の蓄音機の時代や、戦後のSPレコードの時代に雑音の中の音楽に青春を見た人は多い。しかしその5%以下に惜しげもなく金と情熱を注ぐ人もいることは確かである。たかがオーディオされどオーディオである。どのアンプも水準以上の音質が出ており別に文句はないが、あえて特徴を挙げるならば以下の表になろうか。

システムNo.
アンプ EL34pp(30W)
サンバレー(Tri)
VP-3488
KT88pp(35W)
サンバレー(Tri)
VP-3488
6EM7pp(8W)
サンバレー
Supe rSub
6L6GCpp(40W)
マッキントッシュ
MC240
300B直熱3極管シングル(7W)
アドヴァンス
ステラ HC-1
音質の印象一口メモ 分厚い音に特徴があるようで、交響曲やチェロの響きは抜群である。高音に少しいやみが残るがこれはエージング不足かも知れずペンディングにしたい。 分厚い音に特徴があるようで、交響曲やチェロの響きは抜群である。スターリングに低音が出るとは意外な発見だった。中高音は柔らかく聴きやすい。バイオリンも聴きやすい音である。すこし鋭さが欲しいところである。 このサブアンプにして出来すぎである。高級アンプと引けをとらない。眼をつぶって聴けばこの小さなアンプから出た音とは信じられないだろう。中音から高音が柔らかく表現力も良好。パンチもあり元気なアンプである。 私のお気に入りで一番よく聴いているため、総合的に一番良いアンプである。高音にいやみがなく伸びていて、鋭さや力強さもある。 300Bの血統のよさを思い知らされる表現力に優れたアンプである。中音の迫力は抜群。バイオリンの高音は美音である。いつ聴いてもそれなりに安心できる実力だ。しかしないものねだりをするとスケール感と交響曲的響きはいまいちだ。


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