直熱3極管シングルアンプ2A3と300Bの比較


聴こえる世界がこうも違ってくるとは!



昔(1930年代)から2A3アンプというと音の質の良い高級アンプの代表格であった。今では2A3シングルアンプはすべてのアンプの出発点だという人もいる。いっぽう300Bシングルアンプは中音域の力強さの加えて低音域ののびのびとした感じと高音域の清澄感とあいまって、安定的に万人が認めるアンプの優等生といわれている。周波数特性は2A3は16-40kHz(-2dB) 、300Bは6-20KHz(-2dB)であり、2A3は300Bより高音域へ伸びているし、300Bは低音域へずれている。いずれも直熱式三極管(プレート、グリッド、カソードとフィラメント一体型)でシングルアンプであるため、出力は低いので能率の高いスピーカを要求する。無論出力アップを狙ったプッシュプルアンプもあるが、管の特徴を出すにはシンプル回路のシングルアンプが好ましい。音の質は"シンプルイズベスト"だそうで、単純なほど音質は劣化しないそうだ。アンプは増幅する電線であればいいとも言われる。今回2A3シングルアンプをキット製作したので、すでにあるアドヴァンス社300Bシングルアンプ(ステラHC-1)との音質比較を実施した。さて300Bと2A3の音の本質的な差異はどこにあるのか興味津々である。パワーアンプの個性は大部分が出力管と出力トランス(OPT)で決まってしまうといわれるが、回路が単純であれあるほど出力管とOPTの個性は決定的である。今回の試聴が果たして出力管のみの比較になっているとは自信が無いが、まあ一応は出力管の特徴を反映しているものと思いたい。

(1)試聴システム

私のオーデイオシステムと試聴アンプ2台(300B、2A3)を下の写真に示す。



 


トータル試聴システムの装置仕様
CDプレーヤ:TEACのVRDS-50:フルエンシー理論(20KHz再生)RDOT類推補間技術、VRDSメカニズム
真空管式コントロールアンプサンオーディオSVC-200: ECC82×2本 10Hz-100KHz タムラSPT-P1
メインアンプ直熱3極管300Bシングルアンプ(7W):(上左の写真)アドバンス ステラHC-1(300Bは中国製OldTime)、直熱3極管2A3シングルアンプ(3.4W):(上右の写真)サンバレーJB2A3(2A3は中国ゴールデンドラゴン)
スピーカタンノイ スターリングHE:10インチ同軸2ウエイ、能率91dB、クロスオーバ1.7KHz、35Hz〜25kHz
スーパツィータータンノイ ST-200: 25mmチタンドーム型、能率95dB、18KHz〜100KHz



(2)2A3と300Bシングルアンプ比較試聴結果

下表に私の好みによる試聴結果を纏めた。今回はシングルアンプどうしの比較であるので、試聴曲としてパワフルな曲(交響曲やオペラ)は使用せず、弦楽独奏と四重奏曲、ボーカルソロ・小編成コーラスを採用した。要するに弦と声を聴いた。試聴結果を参考にアンプの特徴をまとめた。2A3シングルアンプは刺激的でないバイオリン弦の好みにぴったりである。高音弦は繊細で華麗であり、中低音は柔らかな雰囲気でまとまっている。ボリューム控えめで聴く落ち着いた雰囲気を求める時には2A3シングルアンプは最適である。それに対して300Bシングルアンプは明るい高音弦と重厚な中低音の響きを求める時に適している。特にチェロの響きは2A3に勝る。どちらのアンプも音質のいいことは言うに及ばないが、気分がハイなら300B、落ち着いた雰囲気なら2A3というと大げさか。

弦楽器とボーカルを中心とした試聴結果
試聴曲CD 2A3シングルアンプ(3.4W):サンバレーJB2A3 300Bシングルアンプ(7W):ステラHC-1
バッハ「無伴奏ヴァイオリンソナタとパルティータ」
パルティータ第2番 BWV1004 シャコンヌ
ヴァイオリン:寺神戸亮
1999 DENON
高音弦は生き生きと繊細に動き回り、低音弦はやすらかな響きで支えている。
アダージョは粘り強い振動を特徴として、アレグロのスピードは柔らかに進行する。
全般的に高音が極めて美しく、緊張を強いてこない音作りである。
高音は活気があり刺激的でさえある。低音は分厚く響かせている。
アレグロのスピードは高音弦が活気よく引っ張っているようだ。
全般的に緊張感をもって聴こえる音作りである。
バッハ「無伴奏チェロソナタ」第6番 BWV1012
第1楽章
チェロ:アンナ・ビルスマ
1979 SEON
高音弦ピッコロは繊細な音、中音弦は力強く、低音弦は柔らかく包み込むような響きである。
アダージョは音のつながりがスムースであり、アレグロは流れるようなスピードで進行する。
全般的に優しい美音になっている。
高音弦は繊細というよりは力強くもあり、中低音弦は力強く分厚い。
アダージョは説得力を持っている。
全般的にチェロ演奏に適した音作りである。
モーツアルト「弦楽五重奏曲」第4番 K516
第1楽章
ビオラ:寺神戸亮、クイッケン四重奏団
1995 DENON
高音弦は刺激的な感じは全く無い
アレグロは美しく軽快に聴こえる。
全般的に柔らかな雰囲気を作っている。
高音弦は明瞭に表現され、中低音は説得力を持って進行するようだ。
全般的に一段と明るく活気のある曲作りになっている。
モーツアルト「クラリネット五重奏曲」 K581
クラリネット:シーア・キング、ガブリエル四重奏団
1985 hyperion
このような美しいクラリネットの音を聞いたことが無い。
弦は柔らかく包み込むように鳴り、高音弦は華やかに色を添える。
全般的に中音で表現され、クラリネットの悲哀感と暗さがよく表現できている。
高音弦は明るく、クラリネットは明らかに主張する。
2A3アンプとは全く違った明るい世界
中島みゆき「つよがりはよせよ」
中島みゆき
1979 ポニーキャニオン
ピアノは繊細に、オーケストラは柔らかく暗い感じがよく出ている。
みゆきの声は実にゆっくりとしみじみと語りかけてくる。
高い声は切なさがにじみ出ており、中音の声は柔らかく打ちひしがれたみゆき像が印象的
ピアノは強く、オーケストラは美しい。
みゆきの声は明るいセリフには変身。
全般的に美しいみゆき像になっている。
タリス「エレミヤ哀歌」
lamentatio
ヒリアード・アンサンブル
1987 ECM
響きは夢幻的な世界へ誘い込むようだ。
透明さに冷たさはない。
全般的にコーラスの声の分離は目立たないほど。
音の分離は明瞭。
鋭い冷たさを表現、是が透明というものか。
ペルゴレージ「スターバト・マーテル」
第1楽章二重唱
ソプラノ:マーシャル、アルト:テッラーニ
1983 グラモフォン
ソプラノの天国的な美しさ、アルトのソフトな下支え。
2重唱は分離せず、溶け合った響きになっている。和音の進行
ソプラノは張りつめた美しい声、アルトは弩迫力で挑戦的。
出だしの二重唱はよく溶け合っているが、後の二重唱は二声がはっきり分離して多声音楽的に進行する。

クラシックとCDに戻る ホームに戻る
inserted by FC2 system