直熱3極真空管2A3シングルパワーアンプ製作と試聴記


マッキントッシュM240プッシュプルパワーアンプに比べると直熱3極真空管2A3シングルパワーアンプの音はどうか



(1)直熱3極真空管2A3シングルパワーアンプのキット製作

真空管アンプは電気特性では測り知れない音質を好む人には、なくてはならないツールになっている。私も10年前ほどからすっかり真空管アンプにはまっている。最初は直熱3極管300Bシングルアンプを購入して半導体アンプとの差に気付き、次にマッキントッシュM240の中古を購入して是が私の真空管アンプの原点になった。音の比較はMC240を原点において考察している。実にバランスの取れた標準的な美音真空管アンプでさすが名機と言われるだけのことはある。最近始めたキット試作はこれまでに主としてザキット屋(サンバレー)の真空管アンプキットのお世話になりながら、VP-3488プッシュプル真空管アンプ(KT-88,EL34)(30W)と複合3極管6EM7ppアンプ(8W)を製作しその試聴記をアップした。直熱3極管シングルアンプとしは300Bが親しまれているが、今回昔から美音で著名な2A3アンプをキット製作した。サンバレー社のキット名はジュエリーボックス2A3という。

@ジュエリーボックス2A3アンプ回路図 Aジュエリーボックス2A3シングルパワーアンプ仕様
1)使用真空管:整流管5R4GY、初段増幅管12AU7×2、 第2増幅管6BQ5×2、出力管2A3×2
2)定格出力:3.4W+3.4W
3)周波数特性:16Hz〜70KHz(-1dB)
4)残留ノイズ:1.2mV前後
5)ダンピングファクター DF 2
6)負帰還 6DB
Bジュエリーボックス2A3アンプ裏面実配線写真 Cジュエリーボックス2A3アンプの正面外観写真
Dジュエリーボックス2A3アンプの側面外観写真 E真空管外観写真(左より5R4GY,12AU7,6BQ5,2A3)

@図@にジュエリーボックス2A3シングルパワーアンプ の回路図を示す。拡大してみてください。負帰還式(NFB)の直熱3極管2A3シングルアンプです。まず電源部では、世の中の真空管アンプのほとんどがダイオード整流であるのになんとレトロな5R4GY整流管式である。オール真空管式といえるが、整流管がさて音質にどう影響するかは定かではない。初段増幅管12A7は3極複合管を1セットにして使用するので端子の短絡を前もって行う。第2増幅管6BQ5は5極管であるが3極管結合として使用するためプレートとサプレッサーグリッドを短絡しておく。ということで12AU7、6BQ5、2A3はすべて3極管である。2A3に2.5Vのフィラメント電圧、12AU7,6BQ5に6.3Vのフィラメント電圧を供給する。プレート電圧(B+)は2A3に292V、6BQ5には109V、12AU7には53Vの直流が供給される。カソード(陰極)電圧は2A3で43V,6BQ5で4.7V、12AU7で2.1Vである。プレートとグリッへの結合はド0.1μFカップリングコンデンサーとしてオイルペーパコンデンサーを使用している。パワーアンプでありながら左右入力ボリューム100KΩを使用している。ケースは宝石箱のイメージで木箱のため入力ボリュームのケーシングアースが必要になる。木箱のイメージはいいとしても入出力関係の端子の締め付けが甘い。それはいくら締め付けても木がやわくて圧縮されるためである。

A図Aにジュエリーボックス2A3シングルパワーアンプの仕様を纏めた。2A3シングルアンプの定格出力は公称3.4W+3.4Wである。周波数特性は16Hz〜70KHzと高音域へ伸びているのが特徴的だ。残留ノイズが1.2mVと少し高いようだが、あまり神経質にならないでおこう。負帰還によりダンピングファクターはDF2と中庸からすこしめ甘いめになっている。直熱3極管の特性からハム音はある程度仕方がないとして実用的にはまあ我慢できよう。

Bキットの組み立ては結論的に簡単だった。一日半で完成した。自分にとって多少とまどったところを記録すると、電源部50μ+50μブロックコンデンサーが2本あったがじつは1本のコンデンサーのなかに2本のコンデンサーがパラに入れてあることを理解しにくかったことである。つぎに12AU7増幅管が複合管で2系列をパラに接続して使用するため、端子間の短絡(たすき掛け配線3箇所)を小さいソケットでやるので、歳のせいか細かい作業での指の動きのまずさに自分ながらいやになった。ピンセットを使っても半田ごて先の太さのために隣のコードビニールを焦がしながらの作業であった。こんな不器用では外科医にはとてもなれなかったろう。一応完成した実配線を図Bに示した。

C真空管を挿入する前に電気を入れて電圧チェックをやる。まず焼けるような匂いや煙が出ないことを5分間見た。整流管5R4GYのみを差し込んで電圧チェックを行った。フィラメント電圧は交流2.5V、6.3V,プレートB電源直流電圧は292V、109V、53V、カソード直流電圧は43V,4.7V,2.1Vをテスターで測定した。一般に定格電圧より約10%高い値であった。これで回路電圧関係は正常であることを確認した。
D次に増幅・出力真空管を上部から挿入する。図Eに左より5R4GY,12AU7,6BQ5,2A3の真空管写真を示した。2A3はサンバレープライムチューブ(情報によると中国ゴールデンドラゴンOEM)、6BQ5ソブテック製、12AU7はサンバレープライムチューブである。

E2,3分して真空管が温まったら、ハム音を聴く。ハムバランサーボリュウームを回して大体中央あたりでもっともハム音が小さくなる。さて問題はハム音が許容できないほど大きい場合の対処である。ハム音が大きい場合のほとんどはアースの不良によるもので、配線ミス、ハンダ不良やラグ締め付け不良を徹底的にひとつずつ確認する。アースの確認と補修で大きなハム音は取れた。次に未だ許容できない場合は信号線とヒータ線の隔離や引き回しの再検討を行う。今回12AU7のグリッド配線ハンダ不良でグリッドのひとつが浮いていたためハム音が消えなかった。このことに気がつくまで半日かかったが、ハンダを完成させて見事ハム音は消えた。

F約1時間真空管アンプに電気を入れてから音だしを行った。少しハム音があるなという程度で実用上は音が出れば何の問題もない。CD入力を入れてまずは無難にいい音が出た。めでたしめでたし。宅急便が届いてから2日後で2A3アンプの美音が聞けた。


(2)真空管アンプ試聴方法

全試聴システム外観写真


トータル試聴システムの装置仕様(アンプは除く)
CDプレーヤ:TEACのVRDS-50、フルエンシー理論(20KHz再生)RDOT類推補間技術、ノンフローティングVRDSメカニズム
真空管式コントロールアンプサンオーディオSVC-200、 ECC82×2本 10Hz-100KHz   電源トランス タムラSPT-P1
メインアンプ:今回は直熱3極真空管2A3シングルパワーアンプ(3.4W)と標準機のマッキントッシュM240プッシュプルパワーアンプ(40W)
スピーカタンノイ スターリングHE、10インチ同軸2ウエイ、能率91dB、クロスオーバ周波数 1.7KHz、周波数特性  35Hz-25kHz
スーパツィータータンノイ ST-200、 25mmチタンドーム型、能率95dB(スターリングHEに対しては90.5dBを選択)、周波数特性カットオフ18KHzから100KHz


試聴真空管メインアンプ外観写真

マッキントッシュ MC240 直熱3極管2A3シングルアンプ(3.4W)
ジュエリーボックス2A3


試聴CDソース

試聴に使用したCDソースは次の3枚であり、チェックする音の狙いどころを下に示した。

  1. ベルゴレージ「スターバト・マーテル」より第12終章「肉身は死して朽つるとも」二重唱:アバド指揮ロンドン交響楽団 ソプラノ:マーシャル アルト:テッラーニ グラモホン 1983
    前半はアルト中音とソプラノ高音の天国的美声の響きを聞く。後半はアヴェマリアの絶唱を聞き分ける。
  2. バッハ「無伴奏バイオリンソナタ1番」より第1楽章(アダージョ)、第2楽章(アレグロ):バイオリン寺神戸亮 (DENON 2000)
    バイオリン弦の振動の明晰さと高音の伸びの美音
  3. バッハ「無伴奏チェロ組曲6番」第1楽章:チェロ:アンナー・ビルスマ (ソニー1979)
    チェロ弦の低音振動の哲学的響き


(3)直熱3極管2A3シングルパワーアンプ試聴結果

2A3シングルアンプの特徴は高音弦の振動が実に細やかに聞こえることである。しゃんしゃんとした華やかな高音である。低音の分解能はなく全体的に柔らかい雰囲気である。2A3シングルアンプに強さを求めても無いものねだりである。マッキントッシュM240プッシュプルパワーアンプから低音分解能とスピードとダイナミックレンジを取り除いた中庸の音作りになっている。昔のラジオのようなレトロな音作りである。低音の迫力とスピードあるダイナミックレンジ重視の現代アンプの方向に疑問符を投げかけるようだ。リアル必ずしも美ではない。音楽は所詮人の虚構である。2A3シングルアンプのような中庸のみをゆく雰囲気のいいアンプに十分存在価値を見出す人は多いであろう

試聴曲 バッハ「無伴奏ヴァイオリンソナタとパルティータ」 ソナタ第1番ト短調 

第1楽章(アダージョ)、第2楽章(アレグロ)
バイオリン独奏:寺神戸亮
バッハ「無伴奏チェロソナタ第6番」 第1楽章
チェロ独奏:アンナビルスマ
ペルゴレージ「スターバト・マーテル」第12楽章
ソプラノ:マーシャル アルト:テッラーニ 
直熱3極管2A3シングルパワーアンプ
第1楽章:細部の表現が実に細やかで、高音部の伸びは少ない。低音は柔らかである。すべてが中音でまとまっている。
第2楽章:張りつめた感じはなく、すべてに柔らかである。高音の動きが繊細である。
ピッコロチェロの最高音弦がよく聞こえる。分厚さよりもより柔らかな低音が印象的
前半:ソプラノの美音とアルトの柔らかさ
後半:やや迫力不足はいなめない。フワーと柔らかな合唱
マッキントッシュM240プッシュプルパワーアンプ
第1楽章:張りつめた高音がきれいに伸びている。低音は強く表現力が豊かである。すべてにメリハリの利いた演奏が聞こえる。
第2楽章:活力あるアレグロがメリハリ良く演奏される。スピードある強い高音が印象的である。
中音は分厚く表現され、標準的なチェロ演奏。
前半:転がすようなソプラノの美声と迫力あるアルト
後半:アヴェマリアの合唱が迫力を持って聞こえる。


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