日本画技法について



ドーサの役割
ドーサとは明礬水に膠を混ぜた物であり、硫酸アルミ・カリの結晶が和紙の隙間に沈着し色の滲みや絵の具の移動を防止することが目的である。私の場合刷けでドーサを引いて乾かし、もう一度ドーサを塗ります。それは均一にすることと絵の具の移動を防ぐためです。普通日本画用和紙と指定して画材屋から購入する和紙にはドーサは引いてあるのが常識ですが、念のためさらにドーサを引いて耐水性を高めます。

岩絵の具の下塗りの方法
絵の具の溶き方、塗り方について人それぞれのやり方があるようだが、一般的には下に塗る絵の具の膠は濃い目に、上に行くに従って薄めにします。時と場合により、剥落やひび割れ、下の色の移動は異なりますので経験と勘にたよります。又岩絵の具の粒子についても下ほど粗く上ほど細かくしてゆくと細かい粒子が下の絵の具の隙間に入り込んで絶妙な色彩感がでる事があります。すなわち下の岩絵の具の色が生かされるわけです。その逆はだめです。下の絵の具は隠蔽され何のために重ね塗りをしているのか分からず無駄に終わります。下の絵の具が将来どのように生きてくるかは経験でしか分かりませんので、これまでずいぶん無駄に絵の具を消費してきた事でしょう。またひび割れの防止のためと、塗り始めの頃の岩絵の具の乗りをよくするために、方解石という石英の粒子(番手は7、9)を岩絵の具に混ぜて塗りこみます。そうすると表面がざらざらになって、色がぼやける効果と次の色が確実に乗せる事が出来ます。絵の作製で一番いやな事は画面がひび割れすることと、金箔に絵の具を乗せる場合の剥がれではないでしょうか。泣きたくなる事がしばしばです。特に胡紛(牡蠣殻の粉末で白色顔料)や水干絵の具を使用すときは気を付けなければならない。

金箔の使い方
金箔は日本画に欠かせない伝統的材料で、圧倒的な画面の迫力と前面化、幻想化の効果を持ちこの金箔の力に勝つには赤色と白色しかありません。金箔には材料として「洋金」、「親和金」、「純金」がありますが、この順に化学変化(劣化、黒墨化)が大きく、洋金はすぐに変色し綺麗な金箔感がなくなります。「親和金」は手ごろな値段(1枚10cm平方で百円くらい)で使えます。金箔の使用法は方形の金箔を貼り付けてその上に岩絵の具を塗ること、ほぼ完成した絵に砂子筒を用いて金箔の粉を振りかけることや、方形や短冊形、ひも状に切った(竹ナイフで切る方法は熟練を要する)金箔をピンセットでつまんで絵の上に置いてゆくことなどがあります(きり金)。蒔絵や漆器などの工芸品では職人技となっています。金箔を扱う時に注意しなければならない事は、金箔を紙に吸着させるとき使用する椿油などが金箔に移りそれが膠の接着力に悪影響し絵の具が剥がれ易い事です。出来たなら紙に静電気吸着させる事が望ましい。椿油は使用しない方がベターである。

新岩絵の具の使い方
天然岩絵の具は先に述べたように色の種類が少なく、かつ群青等は極めて高価で趣味で絵を書く人には負担が大きい。新岩絵の具は釉薬の原理を利用して、ガラス質のフリット(紛体)に、高温で発色する金属酸化物を加えて融解し、それを砕いたものである。天然顔料に比べると色調の深みに乏しい感じは否めないが、耐久性に優れ色数も豊富で安価に供される工業材料と同じである。また膠との練り合わせも天然顔料ほど複雑ではない(私は全く気にしないほど)。現在では新岩絵の具を主に用いて、材質感を求める時には雲母、チタン白、朱等を使用する方がいいと考えます。

和紙
紙の製法は私の関心事ではないので省略します。日本画用紙としては以下の銘柄があります。とくに越前奉書紙や石州半紙は強靭な事で有名です。

日本画和紙は厚みが2-3mmほどあり、水刷けで水を含ませた後板パネルの縁に糊付けします。このとき少し紙が伸びた状態で貼り付けられ、乾いた時にはぴんと張ります。皺は出来ないよう強く伸ばして貼り付けます。和紙の上に載る絵の具の厚みは人にもよりますが私は厚塗りしますので紙よりも厚くなります。そして絵の具は石のように固くなった層を形成しています。それらの膨脹収縮に耐えられることが必要です。

筆・刷毛
筆は大別して下記に分類されます。私が使用している筆の本数を括弧内に示しました。プロの絵描きは二百本以上は持っているでしょうか。

岩絵の具は刷毛で塗ると絵の具が流され綺麗な発色がなくなります。しかし連筆ですとたっぷり絵の具を含みますので柔らかく均一に塗ることが出来ますので背景などには欠かせない道具です。9番以下の荒い岩絵の具は線描き筆では塗れません。線書きには11番以上の細かい絵の具か水干絵の具を使用します。筆数は少し日本画をやり始めると瞬く間に増えます。安いもので1本1000円から、高いもので(特に刷毛類)数万円します。 このように道具を揃えるのも道楽です。筆はパネルの上ではヤスリをかけられているようなもので使い込めば直ぐに磨耗します。また岩絵の具を含んだ筆は引っ張るものではなく、置いてゆくものです。色の彩度は顔料の厚みで決まりますので、厚く絵の具を重ねるほど鮮やかな色がでます。

日本画材と日本画の特徴

日本画の魅力は絵の具の魅力、素材の面白さによるところが大です。油絵とは違う宝石のような顔料の輝きと煌き、柔らかな光を放つ画肌にあります。岩絵の具に方解末を加えるとさらに柔らかな輝きがでます。しかし日本画は油絵ほどやり直しができません。ある程度の雰囲気の調整は可能ですが、下の絵の具の影響が強く残りますので構図の変更は技術的に不可能です。日本画は基本的に抽象世界に遊ぶ事です。写実的世界は油絵に任せましょう。所詮平面的な世界ですので、浮世から思い切り離れる事でしょうか。部分的には現実を書いているようで実はイメージの世界なのです。その綱渡りが面白いところでしょうか。




ホームに戻る
inserted by FC2 system